本稿は、エンヴィックス研究員が実際にカンボジアに滞在して現地で見聞きしたことをまとめた報告書である。カンボジアでの水事情と課題、そして今後期待されるビジネスチャンスを、BOP層に対するビジネスの可能性を含めて紹介、考察する。
はじめに:カンボジアについて
人口1500万人を擁するカンボジア王国は、インドシナ半島に位置する仏教国である。ベトナム、タイ、ラオスと国境を接する同国は、アジアにおいて最も開発が遅れている国の一つであり、隣国タイと比較しても、20〜30年遅れているとも言われる。世界銀行のデータによると、人口一人当たりのGDPは1008米ドル(2013年)で、これは、タイの5779ドル(2013年)およびベトナムの1911ドル(2013年)と比較しても、非常に小さい。道路舗装率や電気普及率も低く、今後のインフラ需要が見込まれる。カンボジアでは、米ドルと現地通貨のリエル(Riel)が併用され、そのレートは、1米ドル=約4000リエル=約110円である(2014年9月現在)。
表 カンボジア、タイ、ベトナムの比較
カンボジア | タイ | ベトナム | |
---|---|---|---|
1人当たりGDP (ドル、2013年) | 1008 | 5779 | 1911 |
道路舗装率 | 11% | 99% | 48% |
電気普及率 | 28.6% | 87.7% | 97.3% |
カンボジアの水事情は都市部と農村部で大きく異なる。都市部では、日本などの援助による水インフラの整備が着々と進んでいる。一方、ある程度人口が密集している中小都市(郡、あるいはコミューンと呼ばれる)では小規模民営水道が利用できる地域もあるものの、農村部の多くの人は雨水や井戸、池や河川の原水などを利用している。本稿では以下のそれぞれの水事情について事例をまじえて解説する。
- 大都市
- 中小都市
- 農村部
1. 大都市
大都市での水道事業は公的機関が担っており、2014年現在、15の都市に公営水道事業体が存在し、その配水区域は年々拡大している。中でも、プノンペンの奇跡とも呼ばれる首都プノンペンの水道事業は有名で、人口200万人以上を擁する同都市には4つの浄水場が存在し、2013年の平均浄水量は日量30万m3に達する。24時間365日、各家庭に水が送られ、日々チェックされるその水質は極めて良好でそのまま飲むことができる(ただし、実際のところ、市民はその水質を頭から信用している訳ではなく、多くの市民はボトルウォーターを購入している)。この過程においては、JICAおよび北九州市が重要な役割を果たし、またプノンペン水道公社のエクソンチャン総裁の強いリーダーシップが各方面で賞賛されていることはご存知の方も多いだろう。1993年には70%を超えていた無収水率も年々減少し、2013年には6.78%と近隣の東南アジア諸国と比較しても極めて高い水準を達成している。水道料金は、550 Riel(約15円)/m3から始まる従量制を採用しており、フルコストリカバリーを達成している。ちなみに、採算ラインとなる浄水コストは約1030Riel/m3である。このコストは維持管理(O&M)の費用をさし(OPEX)、先進国の支援による初期投資は考慮されていない(主な援助国は日本および旧宗主国フランス)。プノンペン水道公社は2012年4月、カンボジア株式市場に上場する初めての会社として上場して民営化を果たしたが、依然として85%のシェアは政府が所有しており、実質的には公営に近い形態を維持している。その他の主要都市水道事業も国家のイニシアティブに基づく公営水道事業であり、シェムリアップ、バッタンバン、コンポンチャムなど地方の主要8都市の水道局にJICAが協力している。
ちなみに、下水インフラの整備は進んでおらず、下水処理場が設置されているのはシアヌークビルとシェムリアップの2都市のみである。(一部情報によると、バッタンバン市にも下水処理場があるとのことだが、未確認)。いずれの都市も、維持管理が容易な酸化池(waste stabilization ponds)を採用している。プノンペンには下水処理場は整備されていないが、大部分の生活廃水は整備された運河を経て市南部の池に排出され(ここで、ある程度の汚染物質の自然分解が期待されている)、その後、バサック川に排水されている。
プノンペンのPhum Prek浄水場 (急速ろ過法、浄水供給能力17万m3/day)
2. 中小都市
大都市での公営水道事業体とは反対に、人口が密集した郡やコミューン(中小都市)では、完全な民営による水道事業が多く存在しており、その登録事業者数は147(2014年現在)、未登録の事業者も含めれば400に達すると言われている。民営水道事業者の規模は様々で、接続世帯数が750未満の零細事業者から小規模事業者(接続世帯数750〜1500)、中規模事業者(同1500〜3000)、大規模事業者(同3000〜)と分類される。前述の通り、水道料金は事業体によって異なるものの、その料金は概ね1500〜2500 Riel(約40〜65円)/m3と、プノンペンの3〜4倍程度高い。これは、初期投資および維持管理費を含めたコストを回収し、さらに利益を上げるためである。加えて、多くの事業者は30〜60ドル程度の接続料金を徴収している。事業者の大半はコンクリート製浄水場を建設し、急速ろ過によって処理している。水質は、水道事業体によってバラツキがあるようだが、プノンペン水道公社のように組織された水質検査体制は整備されておらず、多くの場合、直接飲用するには心もとない水準である。そのため、ところによっては住民は雨水を好み、水道はあくまで二次的な水源として捉えられている。とはいえ、水道以外の水源は、河川や池の水、地下水、あるいは雨水に限られ、水質が良くないとはいえ一定の処理が施された水を配水する水道に対する需要は概ね高い。水道が未整備の地域を中心に、河川の原水をポンプ車が配水するサービスもあるが、その料金は3000〜4000Riel(約75〜100円)/m3と水道料金より高額であり、プノンペンより高い民営水道料金が受け入れられる一因となっていると思われる。またカンボジアでは、メコン川沿いの地域を中心に地下水がヒ素に汚染されており(カンダール州、コンポンチャム州およびプレイベン州など)、これらの地域では地下水が飲めないことから、水道に対する需要が高い。
プレイベン州の民営浄水場。住民は、接続時に25ドルと使用量に応じた月々の水道料金2500 Riel(約65円)/m3を支払う。同浄水場ではメコン川の水を急速ろ過にて処理。凝集剤として硫酸アルミニウムを使用し、塩素は使用されていない。
民営水道業界活発化の動き
カンボジアにおける民営事業者の水道ライセンスの有効期間は、これまでは2年間であり、長期的な展望のもとでの投資が難しかった。そこで、より投資しやすい環境を整備するため、2014年5月、工業手工芸省(Ministry of Industry and Handicrafts)は水道ライセンスの発行手続きを改正する通達を公布し、ライセンスの有効期間が20年間に変更された。本通達第1条にて規定されるその目的は、以下の4点である。
- 社会正義のために透明性の高い上水道サービスを構築すること
- 水道事業者および消費者の平等制を確保すること
- カンボジアおよび外国の投資家の投資を奨励すること
- 社会正義および貧困削減のため、信頼でき、また浄化された水を合理的な価格で提供すること
水道ライセンスの授与には2通り、すなわち(1) 工業手工芸省大臣による直接交付および(2)競争入札があるが、基本的に、事業参入を目指す者は(1)をとることになる。(1)のケースにおけるライセンス取得プロセスは以下の通りである。
- フィージビジリティ•スタディの申請
- フィージビジリティ•スタディの実施
- “事業許可”の申請および申請費用の支払い
- “事業許可”取得後、浄水システムの建設開始
- 浄水システムの建設完了後、“操業許可”の申請
- “操業許可”の取得(原則20年間有効)
民営水道業界で求められる日本の技術とコスト感覚
カンボジア民営水道業界の活性化に呼応するように、日本企業も商機を狙って営業活動を活発化している。最近では2014年8月20日、新たな通達に関する説明と日本の技術を紹介するセミナーがJETROの後援のもとで開催され、安川電機や荏原製作所といった企業が、自社の水技術をPRした。民営水道事業者の業界団体であるカンボジア水協会(Cambodia Water Supply Association)のKhykeng氏によると、これまでカンボジアの水道事業者は、中国製を含む安価な製品を使ってきたが、オペレーションコストを抑えるために省エネ性能の優れた高品質の製品を導入する事のメリットについて真剣に検討をはじめているという。カンボジアでは、電気あるいは無電化地域では液体燃料が主要な動力源であるが、その価格が非常に高く(地域差があるが、ほぼ日本と同水準)、省エネ機器導入のメリットは大きい。一方、日本製品に対する懸念もあり、それらは主に(1)価格、および(2)アフターサービス(スペアパーツの入手、メンテナンスサービス等)の2点である。したがって、上記の課題が解決できれば、高品質と見られている日本製品の商機は間違いなく存在する。実際、すでにヨーロッパ製のポンプ等が導入され始めている。
上の写真は、民営事業者が購入したヨーロッパ製の配水用ポンプ(カンダール州)である。本製品は、インバータ導入による省エネ仕様になっている。価格は20,000ドル程度とのことだが、給水塔の設置(50,000〜70,000ドル程度)と比較して安価であるため、同事業者は、今後ビジネスを拡大する事があれば給水塔よりむしろポンプを購入すると語っていた。
カンボジアの浄水事業者の規模は様々で一概には言えないが、おおまかに、カンボジア民営事業者の一つのプロジェクトに対する総投資額は400,000〜800,000ドル程度であり、その内訳は、以下の通りである。したがって、以下のレンジを満たす製品であれば、日本企業にも大きな商機がある。
- コンクリート製浄水プラント(浄水能力15m3/h〜150m3/h):15,000〜100,000ドル
- 給水塔:50,000〜80,000 ドル
- パイプネットワーク:100,000〜400,000 ドル
- プラント建設のための土地購入:20,000〜100,000 ドル
また、最近導入された法令により、民営事業者は3年以内に自身が有する浄水ライセンス区域全体にネットワークを張り巡らすことが求められているため、短期的には特にパイプに対する市場が成長する事が予測される。実際、上述の内訳からわかるように、プロジェクト総投資額の60%程度がパイプネットワークの敷設(工賃含む)のために費やされており、元来その市場は大きい。現状、多くの民営事業者はタイから輸入されたHDPEパイプを使用している。
2013年9月には、株式会社神鋼環境ソリューションが、日系企業による商業ベースでのはじめての案件として、水道事業者へ浄水設備を納入したことを発表している。本プロジェクトは、カンボジアの民営事業者の間でも注目を集めており、業界団体による見学ツアーも企画されている。また、2014年12月には、北九州市海外水ビジネス推進協議会の主導のもと、水ビジネス商談会の開催が予定されており、日本からも20社程度の参加が見込まれている。今後、カンボジアの水市場はますます活性化していくことが予想され、日本企業の貢献も期待される。
3. 農村部
農村部の水道未普及地域の人は雨水や井戸、池や河川の原水、ボトルウォーターなどを利用している。水源は限られていても、その利用法は多種多様である。ここでは、3つの事例を紹介する。また、ボトルウォーター以外の水は安全でないと認識されており、セラミックフィルターやバイオサンドフィルターあるいは煮沸されて口にされる事が多いことを、ここで申し添えておく。
セラミックフィルター
バイオサンドフィルター製造工程
事例1:村レベルでの簡易水道システム
コンポンチャム州のある村では、一つの家族が村に水道を供給する水ビジネスを営んでいる。この水道屋は、メコン川の水を液体燃料ポンプで家の二階部分に設置したタンクに送り、砂ろ過で処理後(メコン川の水が濁る雨季には凝集剤としてミョウバンを利用)、住民の求めに応じて各戸の前に設置されたパイプまで配水している。料金は、雨水貯水ジャー(後に掲載の写真参照)一杯につき2500Rielで、売り上げは、一日10(雨季)〜25(乾季)ドル程度。
1. メコン川の水を取水
2. 水道屋の家まで送水水道屋の家屋(上図)と設置されたタンク(下図)。砂ろ過により処理している。システム全体への投資額は、4000ドル(約44万円)程度という。
3. 各戸に配水(写真中央下部の青いパイプまで配水される。)
事例2:NGO(社会企業)のボトルウォーター販売
現地のNGO“Tuek Saat 1001”は、ユニセフの支援のもと、地下水がヒ素に汚染された地域を中心に、ボトルウォーターの販売プロジェクトを行っている。同プロジェクトでは、同NGOがコミューンと協力して浄水プラントを建設、小学校には無料でボトルウォーターが提供される一方、一般消費者には販売されている。販売価格は、最初のボトル(20L)購入時に18000Riel(4.5ドル)支払い、2回目以降の購入に際しては、1500Rielを支払うと同時に、空きボトルが回収される。同プロジェクトではすでにいくつもの浄水プラントが建設されているが、その中の一つ、筆者が訪問したカンダール州浄水プラントでは、汚染されていない井戸水を水源として使用し、活性炭および砂ろ過により前処理した後、カートリッジ型のフィルターで処理、さらにUVにより殺菌処理し、ボトルウォーターが製造されている。
事例3:池や雨水の利用
水道未普及地域での主要な水源は、池や川の水、雨水、井戸である。前述の通り、セラミックフィルターやバイオサンドフィルターを所有する世帯はそれらを使って水をろ過し、それらを持たない家庭は煮沸してから利用するケースが多いが、煮沸するのは多少手間がかかるので、そのまま飲んでいる世帯も少なからず存在する。
雨水貯水ジャー(上図)。適切に管理されれば安全な水源になりうるが、ボーフラ等が繁殖しているケースも多々あり、衛生的な水源と言えないのが実情である。
貯水のための人工池とプラスチック製タンクおよびミョウバン(スヴァイリエン州)。ベトナム国境近くのこの家庭では、家の隣に人工池を掘り、雨水をためている。年に3〜4回、この池に砕いたミョウバン2kgを直接投入し、一晩置いた後、クリアになった水をポンプでプラスチックタンク(容量3500L)にくみ上げ、飲料用に用いている。タンクの市場価格は350〜400ドル程度だが、この家庭のタンクはカンボジア赤十字が寄贈したもの。ミョウバンの価格は、1kgが1000Riel(約25円)程度。
おわりに:水BOPビジネスの市場可能性を考える
以上をまとめたものが下表である。
大都市 | 中小都市 | 中小都市 | |
---|---|---|---|
水価格 (1m3当たり) |
約550~1500 Riel | 約1500~2500 Riel | 約2500~5000 Riel |
水質 | 一部都市では 直接飲用も可能 |
飲用には心もとない (煮沸して利用、 またはボトルウォーターで代用) |
飲用に適さない |
事業主体 | 公営水道 | 民営水道 | トラックによる未処理水の配送 (NGOや国際機関の主導による 井戸や雨水貯水タンク、 小規模水処理プラントの設置等の プロジェクトもある) |
ビジネスチャンス | – 設計・建設 – 設備・機器・薬品 |
– 事業運営 – 設計・建設 – 設備・機器 (特に水道管パイプへの需要は 今後高まる見込み) |
– 事業運営 – 設計・建設 – 機器、薬品 (井戸用ポンプ、浄化剤等の化学品) |
理想をいえば、所得の高い大都市ほど水価格が多く徴収され、また農村部では安価な水が提供されるべきであろうが、実際には貧困層の人がより質の悪い水に対してより高い価格を支払っている。この背景には、大都市を優先した先進国の援助政策や規模の大きさによる相対的なコスト削減効果等がある。
将来的なビジネス面においては、大都市ではすでに公共事業体が水道業務を運営しているため、プラントの設計・建設や各種設備・機器の新規納入または更新といった分野で可能性がある。一方で中小都市では、水道事業全体においてビジネスチャンスが広がっていると言える。特に興味深いのは、水道事業ライセンスの有効期間が20年に延長されたことで、事業運営ビジネスの可能性が大きく拡大した点である。各コミュニティの規模は大都市のように大きいわけではないので一度に得られる収益は限られているが、水道事業運営の実績を積むという点では大きな意義がある。最後に農村部については、安全な水はまだ十分に確保されていないのでその需要は大きいが、住民の多くは経済力に弱い貧困層あるいは中間層であるため、ビジネスとしての参入はハードルが高い。しかし、人口が多く、また今後ますます所得が上がっていくことが予想される中、今後注目すべきは中間層あるいは低所得層の人を対象とした商業ベースでのBOPビジネスである。
BOPビジネスとは、新興国の貧困層の人々(Base of the Pyramid)を消費者、生産者、被雇用者などの形でビジネスのバリューチェーンに取り込み、現地で雇用や商品・サービスを生み出すことによって、貧困削減等の社会的課題に資することが期待されるビジネスをいう。BOP層の人々とは、年間所得が購買力平価ベースで、3,000ドル以下の低所得層、すなわち、1日当たりの所得が10ドル未満の人々をさし、世界全体の7割を占めるとも言われる。水は、生活に不可欠なものであり、水をめぐるBOPビジネスもまた社会では注目を集めている。日本ポリグルの水質浄化剤の話を聞いた事がある人も多いだろう。
BOPビジネスはなぜ難しいのか。それはやはり、製品•サービスの販売価格が低価格でなければ受け入れられないことが第一だろう。仮にあるBOP層の低所得者A氏に1日1ドルの平均所得があるとして、月々の所得が30ドル。家族の6人暮らしで6人中A氏を含む 2人に所得があるとして、世帯収入がひと月当たり60ドル。食料やいろいろな品が生活に必要である事を考えれば、世帯が水のために支払える金額は多く見積もっても月々5〜10ドル。一人一日当たりの水消費量を50Lと仮定すると、一世帯当たり300L/dayの水が必要であり、月々の消費量は世帯あたり9m3になる。従って、彼らが水に費やせる金額はどれだけ多く見積もっても1ドル/ m3と計算できる。この点、カンボジアの民営水道事業者が設定する価格はおおよそ0.5ドル/ m3であり、BOP層にとって、軽い負担ではないが、手の届く料金設定になっている(実際、多くの人は雨季には雨水を利用してコストを削減している)。そして、彼らは利益を上げている。
日本企業が、大きくも参入が難しいBOPマーケットで勝負するにはどうしたらよいのであろうか。実際、顧客1人から得られる利潤が極めて小さい訳であるから、当然、多くの利益を得るには、多くの製品•サービスを提供しなければならない(薄利多売方式)。となると、これまでセールスマン1人で顧客10人を相手にしていたところを、その10倍あるいは100倍すなわち100人、1000人を相手にしなければならず、そのためには経営を効率化するとともに、販売チャネルを多く持つ必要がある。経営効率化および販売チャネルの増加のプロセスには、現地の労働力の利用が不可欠であり、これは一朝一夕でできることではない。
実際、多くのBOPプロジェクト、あるいは途上国でのプロジェクトはODA等の公的資金を利用してのものであり、商業ベースで行われているケースはほとんどない。しかし、ODA額が減少する一方で新興国の経済力が増して行く中、今後求められていくのは、商業ベースでの取り組みである。その点、神鋼環境ソリューションが、“日系企業による商業ベースでのはじめての案件”と強調して行ったプロジェクトの意義は大きい。神鋼環境ソリューションが大きな利益を得たのか、あるいは赤字でも取りにいった案件なのか、部外者が知る由もないが、将来性あるいは他の事業との相乗効果を狙って、多少の赤字でも案件を取る事は、将来への必要な投資であり、どこの会社も避けては通れない道であろう。
前述の通り、カンボジアの民営水道事業者は、商業ベースで事業を行い、利益を上げている(もちろん、彼らの顧客はBOPに属する貧困層だけでなく、ある程度の所得を有する人々も多く、むしろそちらの方が多いであろうことを付け加えておく)。彼らは従来からあるありふれた技術と現地の労働力を使い、そのマネジメントも貧弱な場合が少なくない。水質も、日本の水道と比較できる水準ではないだろう。しかし、住民はその水を受け入れ、購入し、また多くの場合ハッピーである。それは、従来よりも良い水質の水が、より低価格で得られるからである。彼らは、最高品質を求めている訳ではない。日本企業は、ベストよりむしろただベターになることをもっと意識して事業を行ってもいいのではないだろうか。また、誤解を恐れずに言うならば、カンボジアの市場は「なんでもあり」の世界である。法の縛りが緩く、また政府の腐敗は深刻な問題となっている。したがって、もちろん、信義則に反する事は許されないが、一線を超えない範囲であれば、常に一線に近い者が有利な立場にたつ。同時に、この線引きが日本とは大きく異なり、また日本とは別の類のリスクも存在する。日本企業は常にアンテナを張り巡らせて情報収集を行いつつ一線を見極めるとともに、大胆かつ慎重にマーケットを開拓して行く事も重要であろう。
以上