発電と淡水化には多くの共通点があるのではないか。これが、ニューヨーク州にあるGEのグローバル・リサーチ・センターの研究者らが米エネルギー省(DOE)の新たなプログラムに参加して追及していることだ。発電所では、高圧の蒸気がタービンを回転させ、それで発電機をまわして電気をつくっている。GEは蒸気タービン技術の開発と実用化の分野で世界をリードする企業のひとつであり、現在、世界各地に設置している蒸気タービンは6000基を超え、その発電容量は合わせて530ギガワットを超えている。GEは、トーマス・エジソンが同社を創立した初期のころから蒸気タービンを製造してきた。
この淡水化技術の概要
DOEとの共同プログラムによる淡水化技術開発の一環として、GE Global Researchの研究者らは、3Dプリンタでつくった小型の蒸気タービン機構を使い、加圧した空気、塩、および水の混合物を過冷却ループに通して氷結させる方法を考案した。氷結の過程で、塩は自然に固体として分離し、水だけが氷になる。こうしてできた氷を融かすと、きれいな水が得られる。
GE Global Researchのエネルギー・システムズ研究所の化学エンジニアであり、プロジェクト・リーダーを務めるVitali Lissianskiはこう述べている。「地球の水の97.5%は事実上使えない。淡水化がまだ高価すぎて、大規模な展開が困難だからだ。われわれは淡水化を氷のように固い基盤をもった確実な技術にすることで、こうした状況を変えたいと思っている。海水を氷らせて不純物を除くこと自体はなにも新しいことではないが、われわれが採用しているのは、従来とはまったく違った方法だ。われわれは、ターボ機構技術の豊富な知識を活用して、費用対効果性の高いソリューションを考案している。われわれは、手ごろなコストで実現できる淡水化システムに向けて、いうなればターボ・チャージで加速しているところだ」
タービン内での膨張過程での氷結を利用
この技術開発は、淡水化とターボ機構の両方の分野におけるGEの専門性を活かしたものだ。GE Global Researchでタービン技術開発チームを率いるDouglas Hoferはこう言う。「蒸気タービン中の混相流に関するGEの専門的知見が、淡水化用のタービンを開発するための基礎となっている」Hoferの説明によると、低圧の蒸気タービン中で水蒸気は凝縮して水になる。GEのチームはこの原理をいま開発中の淡水化プロセスに拡張してあてはめ、塩水がタービンを通って膨張する過程で氷結して氷と塩の結晶になるようにしている。タービン内での液体への凝縮の原理を拡張して固体への凝固を実現するには、いくつかの難問を解決する新たな革新的ソリューションが必要である。
Hofer氏はさらにこう言う。「塩分を含む水、すなわちブラインの水滴を、タービン内で冷たいガスの膨張によって冷却することで、淡水化に必要なエネルギーを大幅に減らすことができる。冷却ガスとブラインとのあいだの伝熱が、従来の蒸発式淡水化システムの場合と比べてずっと効率がよいからだ」
これに加えて、先ほどのLissianski氏は次のように期待を述べている。「この技術開発が成功するためには、DOEからの支援がきわめて重要だ。DOEとの共同プログラムを通して、われわれはGEの蒸気タービン部品と技術ノウハウで動く低コストの淡水化システムの実現性を追求していく。われわれが開発しているプロセスがうまくいけば、従来の蒸発式によるものと比べて淡水化のコストを20%下げることができるだろう」
「GEストア」を活用した低コスト淡水化技術の開発
新しいコンセプトによる淡水化技術に蒸気タービンが使われることはこれまで述べてきたとおりだが、GE Global Researchの研究者らがGE全体のエンジニアらのアイディア共有の場である「GEストア」からもってきた技術はこれだけではない。たとえば、3Dプリンティング技術などもそのひとつである。淡水化に蒸気タービンを使うといっても、通常のフルサイズのタービンでは意味がない。通常のタービンは鉄道車両何両分もの大きさがあり、つくるのに何ヵ月もかかる。そこで研究者らは、タービンを実験に適した大きさに縮めてつくることにした。開発のスピードを上げるため、小型化したパーツは、GE Global Researchの付加製造研究所およびオハイオ州シンシナティにあるGE Aviationの付加製造施設が開発した技術を使って3Dプリンティングによって製作した。さらに、淡水化プロセスを実際に起こさせるには、GEの研究所や水ビジネスがもつ技術的な知見が必要だった。
DOEとのこの共同プログラムは現在進行中で、2016年夏の半ばまでつづく予定である。プログラムの最終目標は、淡水化のこの新たなコンセプトの実現可能性を実証することにある。