スイス連邦工科大学ローザンヌ校(EPFL)とイリノイ大学アーバナ・シャンペーン校の研究者らが、二硫化モリブデン(MoS2)単層膜のナノ細孔を、浸透圧を利用したナノ発電機として機能させることに成功した。これによって得られる浸透圧誘発電流には、1平方メートルあたり最大106ワットという大きな出力密度があり、これをMoS2トランジスタの電源に利用して、電源内蔵型のナノシステムをつくることができる。
「ブルー・エネルギー」とも呼ばれている浸透圧発電は、淡水と海水との浸透圧差を利用するもので、再生可能性とクリーンさを兼ね備えたすぐれた発電方法として知られている。また、圧力勾配によるかまたは塩分濃度勾配から生じる浸透ポテンシャルによる力で電解質が細孔を通過するときは、流動電位と呼ばれる別の界面動電現象が生じる。このとき、膜が2次元の素材でできていれば、効率がきわめてよいはずである。膜を通過する水の量は膜厚が薄くなるほど増加するからである。
このような膜を、Aleksandra Radenovicが率いるEPFLナノスケール・バイオロジー研究所のチームが、ナノ細孔のある単層のMoS2からつくることに成功した。この膜を通して、塩分濃度勾配と高い出力密度から、大きな浸透圧誘発電流を得ることができる。
浸透膜による発電の原理
MoS2膜の細孔を水は自由に通過する。これは、MoS2膜に透過型電子顕微鏡で電子を照射するか、または膜を電気化学的方法で酸化させることによって表面サイトの親水性を増しているためである。研究者らは、異なる濃度の塩化カリウム溶液を、ナノ細孔がひとつだけある単層MoS2膜で仕切ることで浸透圧発電を実現した。膜の厚さは0.65ナノメートルで、ナノ細孔のなかの両液の界面では化学ポテンシャルの勾配があるため、イオンがナノ細孔を通過して浸透圧によるイオン流が生じる。このとき、細孔の壁面の電荷が、通過するイオンをその極性にしたがってふるい分け、結果的に測定可能な程度の浸透圧誘発電流が生じる。このプロセスを逆電気透析という。
この原理を使った実際のデバイスについて、研究チームを率いるRadenovicはこう述べている。「シリコン・チップ上の20ナノメートル厚のケイ素窒化物(SiNx)の支持膜に、あらかじめ正方形の穴をエッチングであけておき、そこを単層のMoS2膜でふさぐ。単層のMoS2膜は、化学気相成長法でつくった。構造的な安定性を増すために使うSiNxは、EPFLのクリーンルーム施設で、ナノ細孔をサブ・ナノメートルの精度でうがつためにわれわれが開発した簡単で費用がかからず、しかもスケーラブルな方法でつくった」
また、用途についてRandenvicは、「それを言うのはまだ時期尚早だが、この技術が実際に使われるかどうかは、産業界の関心と、われわれの研究がもたらす経済的メリットにかかっていることはまちがいない」と述べている。