中国の南京大学の研究チームが、従来型の集光器や断熱の仕組みを必要としない新たな太陽光淡水化装置を開発した。Proceedings of the National Academy of Sciences誌上で発表されたこの淡水化装置は、水を循環させる2次元のチャネルを使用している。この2次元チャネル内で水は毛管現象によって移動するため、熱放散を大幅に減らすことができる。
従来は集光器と断熱の仕組みがネック
世界中で水の需要が増えつづけ、しかも供給が伸び悩んでいるなかで、科学者らは淡水化装置の改善に熱心に取り組んできた。より安くより効率的な淡水化の方法がみつかれば、海水を飲み水に変えることができ、問題が解決するからだ。だが、残念なことに、従来型の淡水化プラントは造水量100万リットルあたりおよそ8万キロワット時のエネルギーが必要で、ランニング・コストが依然として高く、その利用は現実的には中東などの裕福な乾燥地域にのみ適している。そのため、多くの研究者が可能なオプションとして太陽光に目を向けてきたが、残念ながら現在まで、じゅうぶんな飲み水を供給できる太陽光淡水化システムを実用化の軌道に乗せるのは困難な状況にある。それはおもに、そうしたシステムが集光器と断熱の仕組みを必要とするためである。だが、今回の新たな試みで、南京大学の研究チームは集光器も断熱の仕組みも必要としない新しいタイプの太陽光淡水化装置がつくれることを示している。
2次元チャネルとグラフェン酸化物の吸熱体
ほとんどの太陽光利用システムに断熱の仕組みが必要なのは、加熱されている水を未加熱の水から隔離しなければならないからである。そうしないと、供給される水に熱を奪われてしまい、熱損失が生じる。この問題を回避するため、研究チームは、加熱されている水を供給されている水から隔離するのに通常の発泡スチロールを使い、毛管現象を利用した2次元チャネルを導入して、吸熱体で熱せられた水を循環させることにした。水の循環チャネルが2次元なので、熱がチャネルを通って逆流することがなく、熱損失がきわめて少ない。研究チームはまた、グラフェン酸化物を用いた吸熱体を開発した。グラフェン酸化物は太陽光の吸収性にすぐれ、しかも熱伝導率が低い。もうひとつ、この方式がすぐれているのは、全体を折りたたむことができ、装置の移送に便利だという点である。
こうして、比較的安価で効率のよい太陽光淡水化装置が出来上がった。しかし、これを現実の世界で使えるようにするには、克服すべき課題がまだひとつ残っている。それは、使われている材料の問題で、こうした材料を使った装置が現実世界の環境条件下でどのくらい長持ちするのか、これがまだ明らかになっていない。