中国水処理分野におけるPPP方式の応用状況と発展方向

本稿は、EnviXのパートナーでもある「清華大学 環境学院 環境管理政策研究所 常杪 所長」による中国の水市場に関するレポートである。今回は、中国の「中国水処理分野におけるPPP方式の応用状況と発展方向」というテーマで、その最近の動向を概説する。

 

はじめに

近年中国では、官と民が連携して公共サービスの提供を行う官民連携方式(PPPPublic Private Partnershipの環境分野での応用が、政府の推進のもと加速されている。特にその重点分野の一つである水分野に関して、PPP方式の同分野での応用と普及は関連ビジネスのあり方に大きな影響を及ぼしている。そこで本稿は、「十三五」期間(2016-2020年)での最新の政策動向を踏まえ、関連市場への影響及び発展方向を分析する。

 

1 中国のPPP方式の推進と水処理分野での応用に関する政策動向

1.1 2014年以来の政策動向:インフラ整備関連分野におけるPPP方式の導入を奨励

中国政府は2014年末以降、「重点領域投融資機制の創新、社会投資の奨励に関する指導意見」(国務院、2014年11月)、「政府と民間資本との協力に関する指導意見」(財政部、2014年12月)などの政策文書を公表した。一連の政策は、インフラ分野における民間資本の導入、公共サービス、自然環境、生態建設、インフラ整備など重要領域における投融資メカニズムの革新、および民間資本の促進を明確にし、重要領域におけるPPPメカニズムの構築を強調し、さらに、実際の実施ベースにおけるあり方も明確にしている。環境分野はその重要な応用・普及分野として取り上げられている。「十三五」環境保全分野の政策指針である「“十三五”生態環境保全計画」(国務院 2016年11月)では、官民連携の全面強化を強調した。

1.2 PPP方式の水処理分野における応用:PPP方式応用が一番進んでいる分野

中国の水処理分野のなかで特に都市部水関連インフラ整備分野は、PPP方式の応用・普及が最も進んでいる分野の一つともいえる。「都市部排水処理、ごみ処理産業発展の推進に関する意見」(国家計画委員会・建設部・2002年)、「市政公用業界の市場化の加速に関する意見」(建設部・2003年)など一連の推進策により、2002年以降、中国の水分野におけるBOT、BT方式の利用・普及が始まった。行政体制の転換調整、民間資本導入に関するルールの不備、新方式の応用に関する管理経験不足などの問題により試行錯誤する時期もあったが、中国の都市部生活排水分野を中心に、PPP方式が徐々に普及されつつある。

「十二五」(2011-2015年)期間までは、都市部の新設の生活排水処理事業の大半は、PPP方式が導入されるようになった。また河川環境修復、農村部における生活排水処理等分野に関してもPPP方式の事業ベースでの応用ケースが多く見られるようになってきた。

1.3  PPP方式の水処理分野への応用の新たな推進策:公共事業での全面普及を推進

2015年に公布・実施された、「十三五」時期における水分野の政策ともいえる「水汚染防止行動計画」(国務院2015年4月)では、PPPの水処理分野での応用を強調し、さらに財政部および環境保護部は共同でその具体的な推進策である「水汚染防止分野における政府と民間資本の合作に関する実施意見」(財政部、環境保護部2015年4月)を公表している。同「意見」では、飲用水水源環境対策、河川環境修復と環境対策、地下水環境修復、都市部黒臭水対策、農村部環境対策、都市部排水処理(再生水、汚泥処理を含む)および配管整備などを対象分野として取り上げ、水汚染分野におけるPPP方式の普及推進を奨励し、市場環境の構築、資金面、政策面のサポート策を明確にした。

PPP方式の政府が関わる排水処理分野での応用に関して、政府はさらに関連政策を強化し、新政策のなかで「強制」や「全面」といった強い表現を用い、その普及の加速を図っていると見られる。2016年10月に財政部が公布した「公共サービス分野における政府・社会資本協力の更なる推進に関する通達」では、「ごみ処理、汚水処理など公共サービス分野において市場化が比較的進んでおり、PPP方式の応用は比較的に普及し、その手順が比較的に成熟し、各新規プロジェクトは“強制”[1]的にPPP方式を利用すべきで、中央財政は専用建設資金における補助を次第に減少させる」と明言した。

また2017年7月には、財政部、建設部、農業部、環境部の4省庁は共同で「政府参与の汚水、ごみ処理プロジェクトにおける全面的にPPP方式の実施に関する通達」を公布した。同「通達」は、排水処理とごみ処理におけるPPP方式の普及を更に推進し、政府参入の全て[2]の排水処理、ごみ処理関連新規プロジェクトのPPP方式の採用、既存プロジェクトのPPP方式への転換の推進を要求した。

 

2 中国水処理分野関連事業の発展とPPP方式の応用状況

近年、中国の排水処理事業は都市部を中心に急速に進んでおり、都市部排水処理率は年々改善し、2015年までに全国都市部、県城(県庁所在小都市)の排水処理率はそれぞれ92%、85%に達した。「十三五」においては、都市部排水処理インフラ整備のさらなる向上(目標は都市部で95%)だけでなく、小都市・農村部における排水処理インフラ事業の整備、汚泥処理、既存都市部処理施設の更新、都市部黒臭水対策、河川の水質改善などが重要分野となっている。

一方、水対策関連事業の前面展開に伴い、莫大な資金需要が生じている。「水汚染防止行動計画」では2020年に向けて水環境の全面改善という中長期目標をあげているが、それを達成するためには、1.9兆元の資金投入が必要となるという公式試算が出されている。これに対して、政府資金だけではその建設需要に応えられないことは明らかで、民間資本の合理的な導入が極めて重要となる。

以上の通り、中国の特定排水処理事業におけるPPP事業は早い段階で普及が進んでおり、近年は、地域ベースや流域ベースの大型PPPプロジェクトも政府の推進のもとで数多く実施されている。

2.1 特定事業におけるPPP事業

都市部排水処理施設分野では、これまでに特定施設の建設、運営を対象としたBOT方式のものが多い(下表の事例を参照)。また近年ではTOT方式の応用も増えている。

表 2017BOT方式下の新規都市部排水処理事業例

所在地域 事業名 時期/段階 担当企業名 方式 事業内容
山西・晋中市 太谷県第二汚水処理場 2017年4月/契約 北京首創股フン有限公司 BOT
(30年)
処理能力:2万トン/日
安徽・合肥市 于湾汚水処理場 2017年4月/落札 天津創業環保集団股フン有限公司 BOT
(29年)
処理能力5万トン/日
広西・貴港市 桂平市西山鎮官沖口汚水処理場 2017年7月/落札 浙江衆合科技有限公司 BOT
(30年)
処理能力1万トン/日
広東・恵州市 恵陽区淡水汚水処理場 2017年7月/落札 重慶康達環保股フン有限公司 BOT
(25年)
処理能力:一期目8万トン/日;二期目10万トン/日

 

2.2 地域・流域ベースの大規模PPP事業

一方2014年から政府のPPP方式全面推進策の打ち出し、および政府の地域・流域ベースにおける「環境改善における総合対策」の実施により、PPP方式の水処理分野での応用は単独新規事業から、複数プロジェクトから構成される地域ベース・流域ベースの水生態修復、水生態建設などの名目の下、数億元~百億元単位の大規模PPPプロジェクトが数多く現れ、関連事業は着々と進んでいる。

表 2017PPP方式下の新規水生態関連事業例

地域 事業名 時期/段階 担当
企業名
方式 事業内容 資金規模
山東・淄博(シハク)市 臨淄区水生態建設プロジェクト 2017年5月/落札 北京東方園林環境股フン有限公司 BOT

EPC
淄河、烏河、運糧河における河川生態対策総合プロジェクト;都市部生活及び淄河、烏河応急水調達プロジェクト;斉魯化学工業園区飲用水配管敷設プロジェクト 21.53億元
内モンゴル・包頭市 包頭都市部水生態グレードアップ総合利用PPPプロジェクト 2017年6月/契約 北控水務(中国)投資有限会社 DBFOT
設計・建設・資金調達・運営 ・移転
包頭市における水安全、水配置、水環境、水景観、水スマート管理の5大種類プロジェクトが含まれ、浄水場、水処理場、再生水場の建設;配管の敷設;洪水対策、景観、緑化事業、水系連通事業などが含まれている。 196.6億元
広西・南寧市 心ウ江環境総合対策PPPプロジェクト 2017年7月/落札 連合体:広西北部湾投資集団有限公私+広西博士科環保科技股フン有限公司 PPP
具体的な方式は明確になっていない
相思湖―明月湖の水修復プロジェクト、心ウ江環境総合対策プロジェクトから構成し、河道対策、生態修復、排水処理場建設、汚濁対策、海岸沿い景観、情報化管理システムなど事業が含まれている。 26.32億元
海南・海口市 澄邁県都市部水環境総合対策(大塘河、海仔河)PPPプロジェクト 2017年7月/落札 博天環境集団股フン有限公私 PPP
具体的な方式は明確になっていない
澄邁県大塘河左岸下流川口部総合対策プロジェクト、海仔河中下流部総合対策プロジェクト、澄邁県大塘河、海仔河流域臨岸村荘(河岸沿いの集落)汚水対策プロジェクトが含まれる

 

5.95億元

 

2.3 農村部生活排水における県域ベースのPPP事業

PPP方式の応用は、中国の農村部水処理分野にも大きな影響を及ぼしている。中国の農村部生活排水処理分野については、都市部の水関連インフラ整備事業に比べて進展が遅れており、2015年時点でその普及率は15%未満であった。

従来の農村排水事業は、単独の事業規模は小さく且つ分散型あるため、民間資本は参入しにくく、EPC方式の採用がほとんどであった。2014年以降、「水十条」をはじめ、国家レベルの一連の農村排水処理政策では県域ベースの「統一計画、統一建設、統一管理」といった要求が出されている。これは従来の推進事業の進め方を大きく変えるものとみられている。具体的には、鎮、村ベース個別で実施するのではなく、ひとつの県という行政単位のもと、集中処理施設・分散型処理施設、配管などをまとめて計画、建設、管理するというものである。こういった背景のもと民間資本の参加は積極的になり、同分野におけるPPP方式の応用と普及が加速している。

表 近年のPPP方式下での新規農村部排水処理事業の例

地域 事業名 時間/段階 担当
企業名
方式 事業内容 資金規模
海南

琼中県

琼中富美郷村水環境対策PPP事業 2015年11月/契約 上海三乗三備環保工程有限公司 BOT
30年
県域内の6箇所の浄水場、14箇所の集中型排水処理場、544箇所の分散型排水処理施設の建設、運営管理、関連配管敷設事業 13.09億元
広東

河源市

和平県鎮、村級生活排水処理施設建設プロジェクト 2017年6月/契約 江西金達莱環保股フン有限公司 BOT
30年
17箇所の集中型排水処理場、216箇所の分散型排水処理施設の建設、運営管理、関連配管敷設事業 3.36億元
広東

雲浮市

郁南県全県生活排水処理PPPプロジェクト 2016年7月/落札 連合体:重慶康達環保股フン有限公司+広東亮科環保工程有限公司 BOT
30年
12箇所の集中型排水処理場、903箇所の分散型排水処理施設の建設、運営管理;既存112箇所の分散型排水処理施設における運営管理 5.02億元

 

 

3 中国水処理分野におけるPPP事業の展開と業界への影響

中国でのPPP方式の水処理分野の応用・普及の加速に伴い、関連業界、関連企業に大きな影響が現れている。

環境質の改善が目標

PPP方式の水処理分野での普及に関して、民間資本の導入による建設資金の調達が政府の目的の一つであるが、そのほかにも環境管理方針の転換も密接に関わっているものと考える。中国の環境インフラ事業の急速な発展においては「量」から「質」への要求が高まり、特に「十二五」以降は建造した処理施設の数や処理能力量の達成だけではなく、対策事業の実施によって環境質がどのぐらい改善したのか、という点が重要な評価指標となっている。BOTなどの方式のもと、事業担当企業は施設を完成させた後も、数十年単位で施設の運営・管理の責任を負うことで、プロジェクトの最初期から事業全体図を考慮しなければならない。

大企業が先頭に立つ

PPP事業には、その性質上、事業担当企業には資本、資金調達能力、交渉能力、技術能力、運営管理能力、人材能力などの高い質が要求される。現状を見ると、事業を獲得している企業のほとんどは証券取引場で上場している大手企業であり、いっぽうで中小企業にとっては簡単に超えられない壁となっている。大企業はPPP事業を獲得するにつれて、資金調達に力を入れ、また、優秀な中小企業をターゲットとしたM&Aも加速している。

大手国有企業は参入を加速

中国では、国有企業は依然として国民経済に大きな役割を果たしていて、特に「央企」と呼ばれる中央政府直轄の大手国有企業は、民間企業では到底及ばない強い総合力を持っている。近年、中国の環境事業の拡大に伴い、国有企業も同分野で事業を積極的に展開している。水処理関連PPP事業分野にも中国葛洲坝集团有限公司、中国電力建設有限公司、中国中車股フン有限公司など大手国有企業が積極的に参入している。その典型事例としては、2016年2月の中国電力建設有限公司による広東省シンセン市の宝安区の「茅洲河流域水環境総合対策プロジェクト」の落札・契約があり、契約額は152億元に達している。

中小企業の同分野でのビジネスモデル再建には工夫が必要 

水処理分野の中小企業にとっては、インフラ整備分野のPPP方式の普及により、政府から直接仕事を請けるための壁が高くなっている。このため中小企業は競争力を高め、大手企業サプライチェーンの一環になる、または、企業向けの工業廃水処理分野に更に力を入れる[3]、といった工夫が必要であり、対応が問われている。

 

4 今後の展望と外私企業の対応

2014年以降、中央政府レベルでの一連の推進策の公布、実施により、中国の水処理分野においてPPP方式の応用・普及が全面的に推進され、「十三五」期間に向けて、河川環境質改善対策分野、都市部黒臭水対策分野、都市部・小都市の生活排水処理分野(再生水・汚泥処理を含む)、農村部水環境改善分野などに関して、その動きが更に加速すると見られる。それによって、民間資本の環境分野への参入規模は更に拡大し、産業構造の変革も十分考えられる。

一方、大規模PPPプロジェクトには、高い技術力、高機能設備、運営管理能力が必要不可欠である。それは中国企業にとっては弱点であり、逆に外資系企業の強みでもある。そもそも外資系企業は、2010年以降、大規模な資金投入による中国でのインフラ系水処理事業への参入例は海水淡水化分野以外では極端に少なく、むしろ強い技術力を発揮し、コア部品・技術の提供を中心に事業を展開してきた。こういった新しい局面のもと、中国に進出している外資系企業にとっては、政策動向、発展状況を迅速かつ正確に把握し、それに加えて、潜在顧客・協力パートナーの選別に力を入れ、自社の進出状況を踏まえ、対応を取るべきである。

 

[1] 括弧(“ ”)は原文にそのまま付いているものである。

[2] 政府が貨幣、実物、権益など各種資産で参入、または、公共部門としてその他の形式でプロジェクトのリスク分担、利益分配での介入、かつ財政負担能力論証及び適正価格評価を通過した排水処理、ごみ処理関連プロジェクト。

[3] これに関連して、近年「第三者サービス」という概念が広がり、政府も推進している。「第三者サービス」とは、エンドユーザー(汚染物を排出する製造企業)が環境対策を自社ではなく、専門業者に環境対策事業の設計、建設、運営管理などを委託すること。

タグ「, , 」の記事:

2020年7月9日
米カリフォルニア州政府、飲料水中のマイクロプラスチックの定義を発表
2020年7月9日
米EPA、飲料水中の過塩素酸塩を規制しない方針を最終決定
2020年5月9日
米カリフォルニア州政府、飲料水中の六価クロムの新汚染基準策定に向けたワークショップを開催
2020年3月24日
米EPA、飲料水中のPFOAとPFOSの規制を予備決定
2020年2月23日
米州水規制規制機関協会ADERASA、上下水法規に関する第12回イベロアメリカ・フォーラム開催