ミャンマー政府、排水未処理の工場の対策を強化へ――適切な排水処理を行っている工場はわずか10%程度のみ

ミャンマー政府は2017年10月、未処理のまま排水を河川へ放出している工場に対して、放出前に適正な処理を行うこと、排水を処理しない場合は工場閉鎖などの措置を講ずると警告した。

ヤンゴン市開発委員会(YCDC:Yangon City Development Committee)傘下の汚染管理浄化局(PCCD:Pollution Control and Cleaning Department)U Saw Win Maung副局長によると、ヤンゴン地域第24工業地区だけで合計3474棟の工場が稼働しているものの、適正な排水処理施設を有しているのはわずか188件に留まるという。大部分の工場の排水が未処理のまま河川の支流へ放出されているため、これに接続するヤンゴン川、ライン川、パンライ川、バゴー川、ガモエエイク川(Nga Moe Yeik Creek)といった主要河川の汚染が深刻化しつつある。同副局長は、適正な排水処理施設を有する工場は全体の僅か10%程度に留まり、ミャンマー政府はこれまで大量の排水を放出する蒸留酒製造所に対して対策を講じてきたと主張している。

ミャンマーでは合計72カ所の蒸留酒製造所が立地し、このうち16カ所がヤンゴン地域に位置している。そのうちの14カ所が排水処理施設を有していないため、現在一時閉鎖されている。ミャンマー食品加工輸出事業者組合(Myanmar Food Processors and Exporters Association)の副理事長であるU Sein Thaung Oo氏は、違法操業の蒸留酒製造所に対する取締りが強化されれば、排水処理施設の設置不備を理由に94%の施設が閉鎖されると指摘している。また、ミャンマー政府はこれまで蒸留酒製造所への取締りに注力しているものの、他の製造業も同様の措置が取られるとしている。

国内に数カ所の蒸留酒製造所を稼働するWin Brothers Holdings MyanmarのプロダクションマネージャーであるU Thein Lin氏は、許可を得ずに現在違法操業中の蒸留酒製造所の取締りを政府は強化すべきであると主張している。同社は操業許可を取得したものの、排水処理施設の設置に膨大なコストを要した。にもかかわらず、違法操業の施設は税金を払う必要もないため、コスト負担がないと指摘した。更に、多数の違法操業の蒸留酒製造所が存在しているため市場競争が激化しており、酒製品の販売価格の下落を招いている。そのため、合法の蒸留酒製造所は利益を得ることができないことを、U Thein Lin氏は強調した。

ミャンマーでは、2012年に環境保全法、2014年に環境保全規則、2015年に環境影響評価の手続きと環境質基準が制定された。これらにより排水処理に関する一連の法規制が整備されたものの、十分な効果が発揮されていないのが現状である。2015年に制定された環境質基準は国際標準を遵守しているものの、仮に国内産業界の利益追求のために同基準を改正した場合、環境へ影響を及ぼす可能性もある。U Thein Lin氏は、ミャンマーは産業発展を推進しており、それと同時に環境保護も経済発展の一部として位置付けることが重要であると述べている。環境や生態系への影響を考慮せずに経済発展を追求すれば、国内の水域や大気、土壌が汚染される。また、産業施設の未処理の排水を河川へ放出した場合は、国内の持続可能な発展が阻害されると、同氏は指摘している。更にU Thein Lin氏は、「排水は環境に大きな被害をもたらし非常に危険であるため制御する必要がある。法規制を遵守する監視や検査体制が現在不十分であるため、工場技術者や他分野の専門家で構成されたモニタリングチームを立ち上げるべきである」と述べている。