米国シリコンバレー、スタートアップ投資とデータ活用で水問題の解決を加速

米国では水不足が深刻化し、数年前よりカリフォルニア州では節水のための諸施策が施されてきた。それに伴って水分野の企業へのベンチャーキャピタルなど民間からの投資も増大してきたが、ここ数年は下降線を辿ってきた。しかし、依然として不安の高まる水不足や水汚染そして洪水などの災害に対応する水技術関連の立上げ企業(スタートアップ)への投資が2017年に入ってから増える傾向にある。

そうした水技術関連のスタートアップ企業への投資を積極的に進めているのが、Match.comの創始者、Sex.comの元オーナーであり投資家のGary Kremen氏で、数年前より水技術関連事業のスタートアップ企業への投資を開始した。また、同氏は200万の住民のために水・洪水に関するマネジメントを行う機関であるSilicon Valley 水道局(water district)の選出メンバーでもある。数年にわたるエネルギー・太陽光発電関連のスタートアップ企業への投資の後、Kremen氏は水問題に引き付けられるようになったが、同氏はその理由を「水は依然解決を要する問題をかかえており、だからこそ我々はこの困難な問題に重点的に取り組む必要がある」と述べている。

水への投資は2013年のピークから落ち込むが2017年には盛り返す

現在、水の管理・浄化技術にはベンチャーキャピタル資金のごく一部が投入されている状況だ。調査会社のCleantech Group社の分析によれば、2016年の水技術スタートアップ企業への投資状況は、ピーク時の2013年と比較すると取引高(金額)は70%減、取引件数は65%減となっている。また水への投資の多くは、ファミリーオフィス(資産家のファミリーの資産管理を行う組織)、企業投資家、慈善団体によって行われている。厳しい投資状況にも関わらず、カリフォルニア州の干ばつ、ミシガン州フリントの水汚染問題、気候変動、人口増加などの問題も手伝って起業家からの関心は依然として高い。Cleantech Group社によれば、水問題に集中的に投資を行うアクセラレーター[1]の数は、2013年の14件から2017年の上半期には26件に増加した。

ビッグデータ利用のソフトウェアを提供するWaterSmart社が成長

使用水量の多い産業では、資源節約と規制遵守についてソフトウェア面からの取り組みにシフトしているところだ。設立7年のWaterSmart Software社のCEOであるRobin Gilthorpe氏は、現在水部門には資本と起業家が順調に流入していると述べる。Kremen氏の最初の投資先でもあるWaterSmart Software社は、データを水道事業者の業務改善に役立てている。「3年前『デジタルウォーター』は取るに足らないものだったが、今日では語るべきことが多くある」と、ビッグデータと分析論の分野でのキャリアを経てこの業界に入ったGilthorpe氏は語る。

シリコンバレーには水に焦点を当てた独自のアクセラレーター、ImagineH2O社も存在する。同社は8年前に設立され、WaterSmart Software社を含む80社以上の企業を支援してきた。データ活用はImagineH2O社が支援する水関連企業にとって大きなトレンドの1つであると同社の社長であるScott Bryan氏は述べる。同氏によれば「起業家らは、ITとバイオテクノロジーの分野での経験を水分野に適用している」ということだ。

上述のKremen氏はさまざまな水分野への投資でも多くの成功を収めている。WaterSmart社のみならず、Badger Meter 社が買収した漏水検知会社のAquacue社や、台湾のKemFlo International 社が買収した水処理スタートアップ企業のHydroNovation 社に対しても投資した。投資の成功の一方で、Kremen氏は引き続き政策面からも水に重点的に取り組んでおり、Silicon Valley 水道局の任期が切れる2018年には、再度立候補する予定だ。

今後、成長する分野は水道事業者よりも工業用水関連市場との観測

水分野における最大の投資機会は、自治体の水利用ではなく工業用途にあるという議論もある。新技術の購買とインストールに関しては、米国内の50,000程度の水道事業者は厳しく規制されており、保守的である。水道事業者を顧客とするWaterSmart社のGilthorpe氏は、水道事業者が保守的になるのはもっともだと主張する。「水は生命にとって不可欠だ。このようなものについてリスクをかかえることは難しい」と彼は述べる。しかし一方で、工業用水関連の市場も課題を抱えている。近年、石油・ガス業界は、廃水管理技術の購買を控えている。Cleantech Group社のアナリストは、これがベンチャーキャピタルによる水技術スタートアップ企業への投資の落ち込みの一因になっていると語った。

Monsanto社も灌漑用水管理ソフトウェアのスタートアップ企業を買収し、欧米で展開

そうした困難な状況にあっても、一部のスタートアップ企業はかろうじてバイヤーを見つけてきた。2017年初め、Monsanto社が所有するClimate社は、農業用灌漑用水の管理を支援するデータを利用するソフトウェアを販売しているスタートアップであるHydroBio社を買収した。Climate社は現在ヨーロッパの顧客にこのソフトウェアを提供しており、さらに米国の農家への販売拡大も計画している。「農業において、水は引き続き課題だ。デジタルツールは、農家が情報に基づいた意思決定を行うのに役立つ」とClimate社のCEO、Mike Stern氏は述べる。

[1] アクセラレーター:起業家や創業直後の企業、すなわちスタートアップ企業に対し、事業を成長させるための支援を行う組織のことを言う。

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