オーストラリアやシンガポールなどで浄水・廃水処理事業を展開するDe.mem(本社:西オーストラリア州パース)は2018年5月8日、食品・飲料市場に参入すべくシンガポールのAromatec Pte Ltdに戦略的出資をおこなったことを明らかにした。両社の合意のもとに、De.memはAromatecに対して10万シンガポール・ドル(約810万円)の資本投資をおこない、無償の株式割当を得た。これにより、De.memは当面、Aromatecの株式の32%を保有する。De.memはまた、戦略的パートナーとしてAromatecの正浸透(FO)膜システムの製造を支援していく。
Aromatecの中空糸FO技術
Aromatecは、シンガポールの南洋理工大学(NTU)が開発した革新的な中空糸FO技術の商業化に力を注いでいる。AromatecはこのFO技術を、調味料、果汁、乳製品、乳清などの食品・飲料製造工程において脱水やコールド濃縮に利用することにしている。このFO技術による最初の商業プロジェクトが今後数ヵ月以内にはじまる見込みである。
FOは、半透膜を使って水溶液中の溶質と水を効果的に分離する浸透プロセスである。NTUが開発した中空糸FO膜は、フラックスが高く(フィード液の濃縮度が高く)、かつ塩のバック・フラックスが低い(ドロー溶液の漏洩が少ない)ことに加えて、製造とスケール・アップが容易である。
両社にとってのメリット
この新しい技術は、AromatecにとってもDe.memにとっても大きな価値を生み出すものと期待されている。この技術は、外部から圧力をかけたり加熱したりする必要がないばかりか、きわめて穏やかなプロセスで栄養素や香りなどの成分を壊さないため、市場に現在あるものと比べてもじゅうぶん太刀打ちできるとみられている。Aromatecはこの技術の商業化を通して、これを蒸発などの従来技術に取って代わるものにすることを狙っている。食品・飲料の製造プロセスへの膜の使用は、両社にとって大きなビジネス・チャンスになる。BCC Researchの調査によると、食品・飲料業界向けのこの技術の世界市場は年間58億ドル(約6300億円)規模で、このうちアジア太平洋地域の市場規模は30億ドル(約3200億円)と見積もられている。
De.memにとっては、Aromatecとの提携は事業範囲の拡大と、その分野の専門技術企業を通じた食品・飲料生産プロセスへの直接の製品提供が可能になることを意味している。また、De.memはこれまで浄水と廃水処理のための製品をおもに提供してきており、今回の提携には同社の既存の製品ラインを補完する意味合いもある。なお、2018年3月8日に公表されたように、AromatecはDe.memに対し、産業廃水処理分野の特定の用途について上記のFO技術の使用を許諾している。また、同年3月6日に公表されたように、De.memはAromatecから、膜ベースの水処理システムを受注している。