腐食防食分野における世界最大の組織であるNational Association of Corrosion Engineers International(以下、NACE)は2018年12月18日、上水道インフラの老朽化は住民の健康に対する脅威であると指摘し、その解決策を提言した報告書「腐食報告書の着眼点:上水道分野の腐食管理に対する緊急ニーズ(Spotlight on Corrosion Report: The Critical Need for Corrosion Management in the Water Treatment Sector)」を発行した[1]。同報告書は、1,300名以上に及ぶ腐食防食の専門家の意見が反映されており、上水道インフラの緊急対策として腐食管理システム(Corrosion Management Systems:CMS)の導入を提言している。
NACEのCEOであるBob Chalker氏は、他のインフラと同様に、全米における上水道管などの上水道インフラは寿命に近づきつつあると、指摘している。修復が必要となる段階まで上水道インフラを放置し続けた場合、事前に腐食防止を行うよりも経済的且つ社会的コストが増大になるという。上水道の供給は必要不可欠であることから、地域コミュニティは上水道インフラを改善する責務を本来負っていると、同氏は強調している。
米連邦道路局(US Federal Highway Administration)によると、米国内における上下水道システムの腐食に伴い発生する直接経費は、老朽化したインフラの取換に要するコストや水道管からの漏水による損失コストなど、年間800億ドルに達する。しかし、これらのコストには、ミシガン州フリント市の事例のように水道管の腐食により発生した広範囲に及ぶ健康被害といった測定不能なコストは含まれていない。
上水道システムの腐食を効果的且つ最適に管理するCMSは存在するものの、全米の多くの地域コミュニティでは十分に実施されていないのが現状である。今回発行された報告書では、上水道システムの腐食を引き起こす根本的な原因を特定し、解決する上で必要な情報を、上水道専門家や水道システム所有者に対して提供する。また、住民の健康被害に対する差し迫った脅威を防ぐために、上水道インフラに対する投資の重要性を、全米各地の地域コミュニティが議論するきっかけとなることも狙いとしている。なお、2011年~2050年にかけての水道本管(water main)への総投資額の予測は下図の通りであり、南部地域での投資が全米の約半分を占める。
図 米国における水道本管(water main)への2011年~2050年の投資総額
(出典:Spotlight on Corrosion Report: The Critical Need for Corrosion Management in the Water Treatment Sector)
テキサス州ヒューストンに本部を構えるNACEの全米52地区に点在する専門家は2019年、地域コミュニティリーダーや地方自治体、上水道システム管理者とともに同報告書を活用し、地域の上水道システムの保護、改善を行う予定である。NACE傘下に位置する5つのタスクフォース(作業委員会)のうち、上水道システムの腐食や防食の分野において知名度のある技術者や専門家を集結した委員会が、今回の報告書の策定指導、監修を行った。
[1] 報告書の原文は以下よりダウンロード可能。
https://nace.org/uploadedFiles/Resources/Spotlight_On_Corrosion/NACE-Spotlight-On-Corrosion-2019.pdf