米上下水道業界団体American Water Works Association(以下、AWWA)、及び、米大手会計事務所インフラコンサルティング会社Ernst and Young Infrastructure Advisors(以下、EYIA)は2019年3月22日、上下水道セクターにおける官民パートナーシップ(PPP)の活用現状を纏めた報告書「To P3 or not P3」を新たに発行した[1]。同報告書では、安全且つ継続的な上下水道サービスの提供を保証する代替手段として、官民パートナーシップの活用促進を掲げている。
AWWA及びEYIAが今回発表した「To P3 or not P3」は、公営上下水道セクターにおける官民パートナーシップの現状や事業者による見解等が取り纏められている。上下水道インフラは従来、公共セクターが資産の一つとして開発、建設してきたため、地方自治体がそのリスクを負担する。これに対して、官民パートナーシップによるインフラ整備は、リスク管理を得意とする民企業にそれを委ねることで、地方自治体が負うリスクを分散(転換)することが可能となる。パートナーとして参画した民間企業は、パフォーマンスベース契約に基づき事業を遂行する義務を負う。
今回発表された報告書の内容は、官民パートナーシップへの理解と関心を探るために、EYIAがAWWAへ加盟する米国及びカナダの公営上下水道業者を対象に2018年に実施したアンケート調査に基づいている。同調査では、官民パートナーシップにより想定される利点や課題、民間ファイナンシングに対する見解、官民パートナーシップの活用が最適とされるプロジェクトの種類などに対する質問を行った。その結果、以下の事項が明らかとなった。
- 官民パートナーシップを通じて得られる利点として、公共セクターのリスク転換、イノベーションの促進、インフラ保守作業の削減などが挙げられる。特に、インフラプロジェクトの実施やリスク転換の手段として新たに資金源を獲得する場合、官民パートナーシップの利用が最も有効である。
- 官民パートナーシップの主な阻害要因は、コストや利点に対する関係者の懐疑的な考え方や組織内部(幹部)による支持が不十分であることである。また、官民パートナーシップにおける技術面は概ね理解されているものの、インフラ資産の管理を民間へ譲渡することに対して大きな懸念が見られる。
- アンケート調査に回答した北米上下水道事業者の約60 %は、投資計画の一環としてインフラプロジェクトを実施する場合、官民パートナーシップを活用することに大きな関心を示した。特に、官民パートナーシップの活用が最も適したプロジェクトとして、上下水道インフラやエネルギー回収・再利用インフラの新設プロジェクトが挙げられた。
AWWAの政府業務総括担当者であるTracy Mehan氏は、「アンケート調査の結果、公営上下水道事業者は、水インフラプロジェクトを実施する上で様々な選択肢があることを広く認知しており、官民パートナーシップの概念を良く理解している。既存の上下水道サービスを単に変更するのではなく、特定プロジェクトの実施に向けて新たな資金源やスキル、プロジェクト遂行における過去の経験を得るための戦略的手段として、官民パートナーシップは捉えられている」と述べた。
一方、EYIAマネージングディレクタを務めるStephen Auton-Smith氏は、官民パートナーシップは現在、水道セクターにて広く導入されていないものの、特定の状況において公営上下水道事業者にとり潜在的な利点があるとの見解を示した。同氏は引き続き、「従来のモデルに基づき公営上下水道事業者が、既存の人材や資金を活用してインフラを建設、維持する能力や経験を有していない場合、官民パートナーシップモデルの活用はより有益であると見られる。水道セクターでは現在、高度な排水処理、エネルギー回収、飲料水としての処理水の再利用、海水淡水化、その他の複合的なインフラ整備への投資が拡大しつつある。このような高度プロジェクトを実施促進する上で官民パートナーシップの活用は今後、重要な役割を担う」と述べた。
[1] https://www.awwa.org/Portals/0/AWWA/Communications/P3Report.pdf