オーストラリアSydney Water、下水処理事業の民営化を検討

2014年8月3日に報じられたところによると、オーストラリア・ニューサウスウェールズ州(以下NSW州)が運営する水道会社、Sydney Water社が河川や海へ放出する排水処理のアウトソーシング化を検討していたことが内部文書により明らかにされた。これまで、NSW州政府は同社の民営化の計画はないと説明していた。

 

過去に50億AUD規模の排水処理の外注化を検討、州政府は一貫して民営化を否定

今回明らかにされたSydney Water社の内部文書によれば、同社は28箇所の州有排水プラントにおける民間の関与比率を引き上げる策を探るべく、コンサルタント会社Farrier Swier社を雇っていた。民営化が検討されている事業は炊事や入浴、トイレ、排水溝などから出る排水の処理であり、金額にして最大 50億オーストラリアドル(約4740億円)規模と見られている。

NSW州政府はこれまで、インフラプロジェクトの投資の一貫として、資産の売却または長期のリースをサポートしてきた。一方で、Sydney Water社を、排水プラントを含めて民営化しようとしているのではないかとの声については、NSW州天然資源・土地・水省のKevin Humphries大臣が一貫して否定を続けてきた。しかし実は検討を進めていたことが今回の内部文書で明らかになったこととなる。Farrier Swier社は、2012年末にSydney Waterに提出した報告書の中で、ボンダイ、マラベル、マラバル、ノースヘッド、およびクロナラの排水プラントにおける「民間企業の関与の度合いを引き上げ」について調査を行っていた。Farrier SwierのGeoff Swier社長は1990年代の電力民営化改革の中心人物である。

レポートに含まれるディスカッションペーパーでは、シドニー市の廃水処理を民間企業が行うことについて、対象に既設のプラントを含む限りは「はっきりしたビジネスケースはない」としている。しかし併せて、Sydney Waterは民間の関与について、発展中の地域の新たな下水プラントや給水などのサービスを含め、より広い視野をもって検討すべきであるとした。また情報公開法にもとづき労働党が入手した別の文書によれば、2012年末に同州政府は民間企業による排水処理の選択肢については、「次の選挙までの間に」探索したいとしており、財務省関係者はこの動きを主導するよう指示を受けていた。

 

既存のプラントに関しては特に民営化を進める理由なし

連邦政府の機関であるオーストラリア・インフラストラクチャー委員会(Infrastructure Australia)はNSW州政府に対し、Sydney Water社を売却することを推奨している。また、NSW州監査委員会は2012年、排水処理事業への民間の参入可能性について探索すべきだと述べている。また、委員らは、Sydney Waterは既存のプラントに必要ないかなる投資も行う余裕があり、また効率向上の余地もほとんどないため、民営化に向けた動きを推し進める「明確な牽引役は存在しない」としている。しかし、新規のプラントにおいては民間が関与するメリットはあるとして、その他の水関連サービスも民間に委譲することを検討すべきだとした。その際には、特に「政府出資を開放する」ことが重要な目的になるとしている。

 

民営化の動きで先行するHunter Water社

Sydney Waterに先がけて、同じくNSW州が運営する上下水道企業のHunter Water社は最近、25箇所の処理プラントの維持管理業務を民営化する契約を交わし、さらに本社を売却した*1。また同社は、伝えられたところによると関連するコンサルタント事業も売却する予定であるという。この動きについて、NSW州労働党のJohn Robertson議員は、Hunter Waterは政府の民営化計画を試す「試験場」であり、Farrier Swier社のレポートはSydney Waterに関する政府の本当の意図を明らかにしたと述べた。一方、Humphries大臣はこうした説を否定し、労働党が展開する恐怖をあおるキャンペーンだと批判している。

 

「民営化」ではなく、あくまで「事業のオーナーシップの問題」と主張

民営化の報道について、Sydney Waterの広報担当者は、コンサルタント会社からレポートが提出された後、この件については何の動きも進んでいないと述べた上で、この問題は「組織の民営化ではなく、事業のオーナーシップ」の問題と考えられるとした。併せて、シドニーの水の大半は民間所有のプラントで処理されており、さらに過去10年にわたり、Sydney Waterの支出の80%は公共・民間セクターへの外注にあてられており、これがコストの削減と「顧客の水道代を安く抑える」ことにつながっていると指摘した。

 

*1 EWBJ51号に関連記事有り「Veolia Water、豪州ハンター地域の上・下水道処理施設の運転維持管理業務を受注

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