グラフェン膜の欠陥修復技術――米とサウジの共同研究

米国とサウジアラビアの研究者らが、1原子の厚さのグラフェン膜にあいた穴を修復する方法を発見した*1これにより、グラフェン膜による高速大量浄水技術への道がひらける可能性がある

グラフェンは、浄水用の従来の膜と比べて600分の1の厚さしかなく、細孔を穿ったものとして製造できるため、高流量の水を容易に通すことができる。これは、水の濾過や淡水化に理想的な条件である。しかし、製造過程で欠陥や裂け目ができ、そこを不純物や塩分が通り抜けてしまう。この欠点を補うため、マサチューセッツ工科大学(MIT)機械工学科のRohit Karnik准教授を中心とするMIT、オークリッジ国立研究所、およびキング・ファハド石油・鉱物大学の研究チームが、真空蒸着と界面重合によって膜の欠陥を修復する方法を考案した(下図)。

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図 グラフェンを銅の基板の上に作製し(左上)、出来上がったグラフェンを銅基板から剥がして多孔性の基板上に置く過程で小さな欠陥が生じてしまう(右上)。この欠陥を修復するために、グラフェン膜を真空中に置き、酸化ハフニウム(灰色部分)をごく薄く蒸着し(左下)、水と非混和性有機溶剤との界面に浸漬すると、界面をはさむ水と溶剤の分子が反応しナイロン(赤色部分)を形成することで、欠陥部分を塞ぐことができる(右下)。
(出典:MIT News)

欠陥修復のプロセス

研究チームはかねてから、水濾過用のグラフェンを銅の基板の上に作製していた。こうすることで、大きな面積のグラフェンをつくることができる。しかし、出来上がったグラフェンを銅基板から剥がして多孔性の基板上に置く過程で、問題が生じる。グラフェンに小さな欠陥ができるのをどうしても避けることができないからだ。

こうした欠陥を修復するために、研究チームはグラフェン膜を真空中に置き、酸化ハフニウムをごく薄く蒸着した。酸化ハフニウムは通常ならばグラフェンとは相互作用しないが、グラフェン・シートに穴があると、そこだけ表面エネルギーが高いために引き付けられ、付着して穴をふさぐ

ただし、この方法はグラフェンの欠陥が小さい場合は有効だが、穴が大きくなると修復に時間がかかりすぎて実用的でない。そこでKarnikらの研究チームは、界面重合という手法を用いることにした。これは膜の製造によく使われる方法だが、研究チームはこれをグラフェンの欠陥修復に応用した。グラフェン・シートに酸化ハフニウムを蒸着したあと、研究チームはこれを水と非混和性有機溶剤との界面に浸漬した。界面をはさむ水と溶剤の分子とは、反応するとナイロンを形成する。グラフェン膜に裂け目があると、水分子と溶剤の分子が接触し、反応してナイロンを形成し、欠陥をふさぐ

実用化の見通し

こうして欠陥を修復されたグラフェン膜には、水を通すための細孔が穿たれる。研究チームによれば、重要なのは、こうしてつくられたグラフェン膜の大きさがほぼ1セント銅貨ほどであることだという。つまり、実用的な膜に使える大きさに近づいているということだ。

チームを率いるKarnikはこう述べている。「淡水化とナノ濾過が大きな用途であり、すべてがうまくいってこの技術が実用化試験のさまざまな要求に応えられるということになれば、そうした応用分野に大きなインパクトがあるだろう。しかしまた、微小な化学的または生物学的標本の処理といったような、この膜の威力を発揮できるほかの用途も考えられる。しかも、どのような種類の分子も取り除くことのできるセンチメートル・スケールのグラフェン膜は、これが初めてだ。すごいことだと思う」

これまでの試験で、このグラフェン膜はある種の塩を透過させることがわかっているが、他の分子は90%を阻止している。今後、さらなる開発によってこの数字を上げていくことが必要となろう。

 

*1 Sean C. O’Hern et al., 2015: Nanofiltration across Defect-Sealed Nanoporous Monolayer Graphene, Nano Letters, doi: 10.1021/acs.nanolett.5b00456
http://pubs.acs.org/doi/abs/10.1021/acs.nanolett.5b00456

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