チリ政府とBHP Billiton社が出資するチリ財団Fundacion Chileは、2016年8月2-3日にチリで開催された汚水に関するセミナーで、新しい水源としての汚水を考察する報告書*1を発表した。これは、チリで一番多くの排水を海中パイプを通じて沖に放水し、旱魃の被害を受けることが多い、港湾都市のバルパライソ市を中心とする地域モデルとし、海に排出される汚水を処理して利用するプロジェクトを提案するものとなっている。
排水利用は水不足が厳しいイスラエルやシンガポールで盛んに行われているが、調査書によれば、同地方全体の排水量の64%に相当する8000万m3の排水が毎年海に流されており、これを100%使用すれば、同地域の主な生産部門で必要とされる水量の3分の1が賄われることになる。同地方の水使用の用途別割合は、農業用79.8%、家庭用12.4%、鉱山用4.3%、工業用3.5%で、工業部門の内訳は下図の通りである。
チリ財団が提案するプロジェクトは、海に放水している排水を汚水処理場に回し、そこから使用者に配分するというもので、コスト削減の為、排水源と、汚水処理場、再利用場所を効率良くつなぐ設計がされている。プロジェクトは全国レベルに広げることを目標としており、バルパライソに続いて、北部のコキンボ地域でのモデルも開発中となっている。地方においては、農村での水の再利用に焦点をあてている。
チリ財団によれば、排水再利用により、GDPの13%までの押し上げ効果と8万3000人の雇用創設が期待出来るという。また排水の再利用のコストは、淡水化よりも72%投資コストが安く、また運営コストも84%低いとされている。
チリは特に中部及び北部地方で近年水不足に悩まされて、約6.2億米ドルの損害を被り、5万人の雇用の喪失が危ぶまれている。また農村部の56%にあたる194の農村に対して、農業緊急事態宣言が出されている。
*1 http://www.fch.cl/wp-content/uploads/2016/08/reuso12agosto.pdf