インドの石炭火力、下水の使用は渇水の根本対策にならず――グリーンピース・インドの報告書

石炭火力発電所の冷却水として下水を使用しても、火力発電、農業、そして都市のあいだの水争いの解決にはならない――グリーンピース・インドが2017年6月13日に公表した報告書“Pipe Dreams: Treated sewage will not solve coal power’s water problems(パイプラインの幻想:処理済み下水は石炭火力の水問題を解決しない)[1]”はこう指摘している。2016年、インド政府は下水処理施設から50キロメートル以内にある石炭火力発電所に対し、処理済みの下水を利用することを義務づけた。このとき、Piyush Goyal電力・石炭・新・再生可能エネルギー・鉱物大臣は、インド最大の火力発電会社NTPCがマハーラーシュトラ州にもつモーダ発電所に対し、近くの都市ナーグプルの下水を処理した水を使うよう命じた。それにともなって生じる新たなコストは、電気料金に上乗せされ、消費者に転嫁される。

有効性が疑問視される政策

2016年前半の異常渇水は石炭火力発電所に深刻な水不足をもたらし、いくつかの発電所は、水を求める農民らの抵抗に遭って数ヵ月間の操業停止を余儀なくされた。発電所に処理済みの下水を使わせるという政策はこうした状況を打開するためのものだったが、じっさいには、地理情報システム(GIS)による分析が示すように、処理済みの下水を利用できるのはインドのすべての石炭火力発電所の8%(設備容量1800kWに相当)未満にすぎない。逆に、全石炭火力発電所の87%(設備容量2億kWに相当)は、処理済みの下水を入手できる手立てがまったくなく、この政策の有効性が疑問視されている。


図 石炭火力発電所と下水処理プラントの位置
(赤い点は処理下水を利用可能な石炭火力発電所、黒い点は利用不可能を表している。)
(出典:Pipe Dreams: Treated sewage will not solve coal power’s water problems)

発電設備容量100万kWの石炭火力発電所には1日に8400万リットルの水が必要だが、それを処理済みの下水から得ようとしても、そのような大量の水を供給できる下水処理施設はほとんどが発電所から遠く離れた大都市にある。1日8400万リットルという量は、デリーとムンバイの下水処理能力のほぼ40%に相当する。だが、たとえばチャッティスガル、オリッサ、マディヤ・プラデーシュの3州には合わせて7700万kWの設備容量をもつ石炭火力発電所があるが、この3州の処理済み下水の供給能力は150万kW分しかない。


図 州別の下水処理容量()、石炭火力発電所の水需要量()、
石炭火力発電所で利用可能な処理済下水の量(
(出典:Pipe Dreams: Treated sewage will not solve coal power’s water problems)

グリーンピース・インドの研究員でこの報告書の著者でもあるJai Krishnaはこう述べている。「下水の利用で石炭火力発電所の水問題を解決できると言うのは、渇きで死にかけているひとを1滴の水で救えると言っているようなものだ。水争いを解決するには、水を消費しまくり汚染物質を排出しまくる古くて効率のわるい発電所を段階的に廃止していくとともに、新規の石炭火力発電所の認可を中止するほうがもっと効果的だろう。また、新たな水消費目標を迅速に設定するのも、水危機の緩和に役立つだろう」

コストや生態系の問題も

報告書はまた、発電所が処理済み下水を利用できたとしても、そのためには水のコストが300%ないし600%上昇することもあると指摘している。しかもこの計算には、下水処理施設に必要な何十億ルピーという設備投資額は入っていない。こうしたコスト上昇分は電気料金に上乗せされ、その分だけ送配電事業者や消費者の負担が増える。

水とエネルギーを専門とするリサーチ・センターManthan Adhyayan Kendraとグリーンピース・インドがまとめたデータによると、インドでは2016年1月から2017年4月までのあいだに、石炭火力発電所の水不足が原因で150kWhを超える発電の機会が失われている。石炭火力発電所は、発電量1 kWhあたり3.5リットルの水を必要とする。この報告書の分析では、全インドの石炭火力発電所の総発電設備容量を2億3000万kWとしており、その稼働に必要な水は1日におよそ190億リットルとなる。

また、処理済みの下水が下流の生態系にも大切な役割をはたしていることにも注目する必要がある。石炭火力発電所が消費する処理済み下水は、その土地の生態系から取り去られるばかりで、あとは何の役にも立たない。

最後に、Krishnaは政府の姿勢をつぎのように批判している。「インドが気候変動とモンスーンの変動にはげしく見舞われているいま、われわれは石炭火力発電が引き起こしている水危機への対策を早急に講じなければならない。中央電力庁(CEA)が策定した国の電力政策案では、すくなくとも2027年までは石炭火力発電所の新設は必要ないとしている。太陽光発電のコストはすでに石炭火力を下回っている。それにもかかわらず、環境・森林・気候変動省は、いまだに石炭火力発電所新設の許可を出している。これは理屈に合わないばかりか、貴重な資源の無駄遣いでもある」

[1] http://www.greenpeace.org/india/Global/india/2017/docs/Pipe-Dreams.pdf

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