フランス、ドイツの水企業グループが、イランの水業界とそれぞれ協力協定を結んだ。
フランス水企業グループとイラン上下水道専門家協会
フランスの水ビジネス企業のコンソーシアムである「フランス水企業グループ」は2017年10月18日、イラン上下水道専門家協会(IAWWE)と、同協会が上下水道分野全般にわたってフランス水企業グループの専門的知見とノウハウを利用することで合意覚書を交わした。IAWWEはイランの国内民間企業と外国企業との技術ギャップ等を埋めることを目的とした団体である。同団体のQanbarali Rajabi会長は今回の合意について、これはイランの水危機の緩和の一助とすることをめざしたものだと述べている。
覚書の調印は、10月中旬にテヘランで開催された国際上下水道見本市の会場でおこなわれた。調印式でIAWWEのRajabi会長は、「飲み水の不足は世界共通の問題であり、このことがイランとフランスの協力に新たな局面をもたらしつつある」と語った。ますます縮小しつつある水資源、いつまでもつづく旱魃、大量の水消費といった問題に取り組むなかで、イラン政府は同国の老朽化した上水道網の近代化、新たな水処理施設の建設、それに水の使いすぎを防ぐための最先端の灌漑システムの採用などの施策を強化しているところである。
ドイツ上下水道・廃棄物協会とイラン国営上下水道エンジニアリング公社
10月18日には、イラン国営上下水道エンジニアリング公社とドイツ上下水道・廃棄物協会(DWA)との協力協定の仮調印もおこなわれた。この協力協定は、イランのなかでも水不足の深刻な大都市のひとつであるエスファハーンに上下水道事業従事者の研修センターを設置するためのもので、公社のHamidreza Janbaz CEOによると、DWAが建設費の50%を負担する。研修センターは2018年3月21日から活動を開始することになっている。
イランは、世界でも最も水ストレスの強い地域に位置している。年間雨量は平均で約250ミリで、これは世界の平均降水量のおよそ4分の1しかなく、政府は、くりかえし襲ってきて広大な不毛地帯を残していく旱魃との格闘をつづけている。イランの水のセキュリティを脅かしている要因としてもうひとつ、自殺行為ともいえるほどの水の使いすぎの習慣がある。これは、役人や専門家がいくら警鐘を鳴らしてもやむ気配がない。統計によると、イランの乏しい水資源のおよそ90%が農業部門で消費されているが、農業における水のリサイクル率は50%に満たない。
EnviXコメント
イランの水ビジネスには多くの先進国が熱い視線を送っている。上で示したのはフランスとドイツの事例だが、例えば韓国のDoosan Heavy Industries & Construction(斗山重工業)は2016年に海水淡水化プラントの建設プロジェクトを約2200ウォンで受注したが、この契約は、イランへの経済制裁が解かれてから初めて、同国の海水淡水化市場に外国企業が参入する事例となった[1]。この契約にいたるまでに、斗山重工業は2016年4月にイランの国営上下水道エンジニアリング公社と覚書を交わすなどして同国市場への参入を試みてきた。また、韓国の朴槿恵大統領(当時)とイランのハサン・ロウハーニー大統領とのあいだで行われた首脳会談の合意も、この契約を後押しすることになったという。
日本も、2017年2月に「日本-イラン 水ビジネスフォーラム」をJETROが主導してイランのエネルギー省と共同で開催し、相手国政府に対して日本の技術などを紹介することでアピールをおこなっている。JETROが発表している同フォーラムの結果[2]によると、イラン側としては資金調達に難点を抱えるために、BOO(建設・運営・所有)方式またはBOT(建設・運営・譲渡)方式での外国資本の参入が期待されているとのことである。
軍事的な問題から今後も経済制裁を受ける危険性のあるイランだが、水の問題は逼迫している。日本だけでなく、韓国、そしてフランスやドイツも同国の水ビジネス市場を狙っており、今後もその動向には注目が集められるだろう。なお、イランで今後検討されている水分野のプロジェクトは以下の通りで、総額は約55億ドルである[3]。
項目 | 数 | 投資形態 | 投資額 (100万ドル) |
---|---|---|---|
農村部排水処理施設 | 70村落 | BOT | 140 |
スマートメーター導入 | 300万台 | ROT | 281 |
水道施設 | 2か所 | Finance/BOT | 40 |
海水淡水化施設 | 4か所 | BOO | 83 |
海水淡水化および給水に関する基本計画 | 2計画 | BOO | 3600 |
無収水管理プロジェクト | 35か所 | BOT/ROT | 200 |
都市部大規模排水処理施設 | 4か所 | BOT | 204 |
排水処理施設(バイバック方式) | 17か所 | バイバック | 770 |
エネルギー省庁舎への小規模排水処理施設 | 100か所 | 購入 | 180 |
合計 | 5498 |
[1] EWBJ59号に関連記事あり「Doosan、イランで海水淡水化プラント建設プロジェクトを受注」
[2] https://www.jetro.go.jp/biznews/2017/03/6d26eee9fdf844ad.html
[3] https://www.jetro.go.jp/biznews/2017/03/6d26eee9fdf844ad.html