2017年10月24日にアイルランド環境保護庁(EPA)が発表した都市における下水処理に関する報告書(Urban Waste Water Treatment in 2016、以下「本報告書」)ところによると、同国では下水処理の欠陥に対応しなかったことで国民の健康と環境に甚大なリスクが生じているという。このような状況を受けて、EPAでは、これまで下水を効率よく収集・処理するための十分な投資をしてこなかったツケを回収するためには大規模な資金投入が必要だと指摘する。本報告書が指摘するアイルランドの不十分な下水処理について、EPAの環境法執行担当役員Gerard O’Leary氏は次のように説明する。「わが国の人口の半数から排出される下水は、環境基準を満たしていません。何年もの間、わが国は下水処理の欠陥に対処してきませんでした。貴重な水路を守り、公衆衛生を守るためには、実質的かつ持続的な投資が必要です」
また、同じくEPAの環境法執行担当役員のDarragh Page氏は次のように述べた。「アイルランドでは、下水が求められる基準まで処理されていないことにより、環境が危機にさらされています。本来であれば2005年までにこれらの基準を遵守しなければなりませんでした。地域によっては、新規のまたは改良された処理システムが必要ですが、その他の地域では、すでに必要な処理能力は備えているものの、その管理に改善が必要な状況です」
報告書は以下のEPAの以下のサイトからダウンロード可能である。
http://www.epa.ie/pubs/reports/water/wastewater/uwwreport2016.html
具体的な問題点
本報告書の中で報告された、下水処理に関する深刻な事態は以下のとおりである。
- アイルランドに185ある規模の大きな市・町のうち、50の市・町の下水処理がEUの基準を満たしていない。これには、リングセンド(Ringsend)下水処理場の大規模改修が求められるダブリンも含まれる。
図 下水処理がEUの基準を満たしていない市・町
(出典:Urban Waste Water Treatment in 2016)
- 12万人の人口を擁する44の地域は、下水を集めたあと、処理せずに環境中に放出している。この地域の半分はコーク(Cork)およびドニゴール(Donegal)が占めている。このうち5つの地域(Youghal、Belmullet、Rush、BundoranおよびKillybegs)では2017年末までに下水処理施設への配管が整備されるなど、一部の地域では下水処理施設への接続が構築されつつある。
- 残りの31地域に下水処理施設を導入する計画は、これまで3年にわたって遅延しており、大半は2021年まで完成しない見込みである。
- 河川や湖沼、海岸の水の汚染源が汚水のみである59の地域において、水質が良好と評価されないリスクにさらされている。ドニゴールおよびゴールウェイ(Galway)がこの4分の1を占める。
- 4つの海水浴場(Merrion StrandおよびLoughshinny海岸を含む)では、下水による水質汚染のリスクが、遊泳が危険となる水準にまで達している。
- 12の地域(Blackwater および Nore)の河川では、危機に瀕しているカワシンジュガイ(淡水真珠貝)を保護するために水質の改善が必要である。
- 貝の生息域を守るため、3つの地域では下水の消毒が必要である。
- 2016年に発生した、下水処理プラントの運営維持における問題が原因で起きた74の環境事故については、それらの問題は解決されておらず、再発する可能性が高い。下水処理プラントの再発事故の原因の内訳は下図の通りで、運営維持の問題は全体の27%を占める。
図 下水処理プラントで起きた問題の原因の内訳
(出典:Urban Waste Water Treatment in 2016)
- 下水汚泥は2016年には約5万6000トン発生し、その処分先は下図の通り。約8割が農業用として再利用されている。
図 下水汚泥の処分の内訳
(出典:Urban Waste Water Treatment in 2016)