中国科学院SINANO、ナノ粒子テンプレート法による超高性能淡水化用ナノ濾過膜を開発

ナノ濾過(NF)膜は、逆浸透(RO)膜と限外濾過膜の中間の性質を備えた圧力駆動膜の一種である。通常、NF膜には、分画分子量(MWCO)が200ダルトンを超える多価塩や有機分子を比較的低い駆動圧のもとで阻止するという利点があるため、NFは、一価イオンの超高阻止率が要求されない低エネルギー高スループット淡水化に理想的な水処理技術となっている。かくしてNF膜は、産業プロセス水の処理、廃水の汚染除去、および地下汽水の脱色と軟水化にひろく使われてきた。

最新のNF膜は、薄膜複合体(TFC)をベースに、限外濾過膜上に界面重合によってポリアミド(PA)活性層を形成してつくられている。このTFC NF膜の性能を向上させる試みが過去数十年にわたってなされてきたが、TFC NF膜の透過係数は依然として高くない。高い溶質阻止率を維持しつつ透過係数を高めることができれば、必要な膜面積を大幅に縮小したり駆動圧を低くしたりしても造水目標の達成が可能になるため、設備投資額が下がり、もっと手軽に使えるようになる。こうしたことから、NF膜の高い阻止率を維持しつつ水の透過係数を高めることが、現在でも大きな課題になっている。

ナノ粒子テンプレート法によるPA NF膜

中国科学院蘇州ナノテク・ナノバイオ研究所(SINANO)の靳健(JIN Jian)教授が率いる研究チームが、これまでになく高い透過係数と満足すべき阻止率をもつ淡水化用のPA NF膜を犠牲ナノ粒子テンプレート法によってつくる斬新な手法を発表した。この成果はNature Communications誌に2018年5月21日に掲載された[1]

研究チームは、単層カーボン・ナノチューブ(SWCNT)のネットワークを中間層にした以前の試み(Small誌2016年12月5034-5041)をもとに、SWCNTとポリエーテルスルホン(PES)の複合体の支持層にゼオライト系イミダゾレート骨格(ZIF-8)のナノ粒子を付着させた(下図a)。付着したナノ粒子は、支持膜の表面に粗く不規則なナノ構造を形成した。こうしてできたナノスケールの凹凸のある表面に、ピペラジンとトリメソイルクロリドの界面重合によって膜を形成し(下図b)、そののち、ナノ粒子を水に溶かして除去すると(下図c)、ナノスケールのしわのよった薄いPA活性層が残される(下図d)。

図 PA NF膜の作成の概念図
(出典:Nanoparticle-templated nanofiltration membranes for ultrahigh performance desalination)

こうしてつくられたPA TFC膜は、硫酸ナトリウムについて95%という高い阻止率を維持しつつ、1平方メートル・時間・バールあたり(m−2h−1bar−1)最高53.5リットルというこれまでになく高い透過係数を実現した。これは、NF用途の満足すべき阻止率をもつTFC PA NF膜としては、とび抜けて高い透過係数である。

この膜の製作では、ZIF-8ナノ粒子の幾何学的構造が支持層上に粗い表面構造をつくり出すことで、しわのよった膜が形成される。ZIF-67や炭酸カルシウムなど、ほかの可溶性ナノ粒子にも、ZIF-8と同様に犠牲テンプレートとして使えるものがある。透過係数がきわめて高く塩の阻止率がそこそこ高いNF膜は、地下汽水の淡水化、水の軟水化、家庭用RO/NF浄水、および廃水再利用をさらに大きく前進させる可能性を秘めている。

[1] Zhenyi Wang, et al., “Nanoparticle-templated nanofiltration membranes for ultrahigh performance desalination”, Nature Communications, doi: https://doi.org/10.1038/s41467-018-04467-3
https://www.nature.com/articles/s41467-018-04467-3

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