米国NPO、家畜排せつ物がエリー湖流域におけるリン汚染深刻化の原因と報告

米国の環境NPO法人であるEWG(Environmental Working Group)が2019年4月9日発表したレポート[1]によると、近年急増した家畜排せつ物の排出が、エリー湖流域におけるリンによる水質汚染が深刻になった原因かもしれないという。また、同レポートによると、オハイオ州、インディアナ州およびミシガン州に跨って流れるマウミー川流域に存在する畜産事業者の数は、2005年と比べ42%急増したという。エリー湖に流入するリンの約30%がマウミー川流域からのものであり、そのリン化合物が藻類の大量発生を引き起こした。州当局は、この藻類の大量発生が数百万人の飲み水や当地の広範囲に存在する観光産業を危険に晒しているとの懸念を示している。


図 マウミー川流域の畜産事業者数の推移
(出典:EWG)


図 マウミー川流域の畜産事業者の分布
(橙色:2005年時点、緑色:2005年~2018年の新規事業所)
(出典:EWG[2]

新任のオハイオ州知事Mike DeWine(共和党)は水質汚染の解決に取り組むと誓ったが、環境保護主義者たちは政府が排せつ物の取締りに力を入れるべきだと主張した。レポートによれば、1990年以降、化学肥料のリン濃度が低くなっているのに対し、エリー湖におけるリンの濃度は横ばいか、あるいは高まったという。「つまり、2005年から2018年にかけて、同流域に排出された排泄物によるリンの量は67%増えた」と、レポートの著者であるEWGのSarah Porter氏は語った。同氏はまた、「今そこで何が起こっているのか、そしてこの問題に対処し得る同地域の環境収容力がどの程度であるのかをもっとよく把握する必要がある」と述べた。

今回のレポートでは、衛星画像やGoogle Maps’ Street Viewの写真などを用い、動物納屋の規模に基づき地域への排出された排せつ物の量が推計され、その結果、毎年1万610トンのリンが排出されたとみられている。「問題は、規制当局者たちが排せつ物の行方を知っていないことだ」とPorter氏は指摘した。また、環境推進者からは「小規模の畜産農場は州からの許可をもらっていないし、マウミー川流域における農場のうち、約80%の合計775軒の農場は許可を発給されていない。そのため、州政府は許可規制を強化すべきだ」とも指摘された。

一方、農業コミュニティは、畜産農場は許可をすでに厳しく規制されていると主張した。また、Ohio Farm Bureau Federationの公共政策部のYvonne Lesicko副部長は、2019年4月8日に同レポートの問題点を次のように指摘している。「同レポートは、流域での畜産活動が“2015年のオハイオ州法”の規則により義務が課せられていることを認識していない。この州法では、天気予報、土壌条件、タイミングなどに従い、排せつ物の排出などについて厳しい規制に従うべきことが規定されている。」

このような問題の解決に向け、DeWine州知事は9億ドル(1ドル約112円換算で約1007億円)の基金「H2Ohio」を設置することを明らかにしている。同時に、Toledo市の環境活動家たちが住民たちに湖を汚染する者に対して訴える権利を与えようとする修正法案「Lake Erie Bill of Rights」も2019年の春に採択された。これに対してマウミー川流域の農場主たちは上訴する動きを見せている。

[1] https://www.ewg.org/maumeemethodology
[2]
https://www.ewg.org/interactive-maps/2019_maumee/map/