アイルランド環境保護庁(EPA:Environmental Protection Agency)は2019年7月2日、同庁が2017年及び2018年に農村地域の一般家庭が設置する2000か所以上の排水処理システム(主に浄化槽)を検査した結果、半数以上が建設や保守に不備があり検査が不合格であったことを明らかにした。このような同システムの不備は一般家庭の飲料水用井戸や河川の汚染につながる可能性を指摘している。
アイルランドの農村地域に居住する一般住民は、家庭用井戸から汲み上げた地下水を飲料水/生活用水として利用し、敷地内へ設置した排水処理システム(主に浄化槽)にて排水処理を行うケースが見られる。一般家庭で使用された生活排水は浄化槽へ送られ、処理された排水(処理水)は地下へ浸透(涵養)させる。国内に位置する多くの排水処理システムは主に、農村地域に居住する一般家庭の排水処理を目的として使用されている。同国には約50万か所に上る排水処理システムが稼働しており、そのうちの9割に汚水処理タンクが設置されている。EPAは、国内の排水処理システムを検査する国家検査計画(National Inspection Plan)を策定する責務を担っている。同計画に基づき、毎年少なくとも1,000か所に上る排水処理システムを検査することが地方自治体に義務付けられている。
EPAは今回、国内の農村地域に位置する一般住民が設置する排水処理システムを検査した結果をまとめた報告書「Domestic Waste Water Treatment Systems 2017-2018[1]」を発行した。同報告書の主な内容は以下のとおりである。
- 国内に位置する多くの排水処理システムは主に、農村地域に居住する一般家庭の排水処理に活用されている。同国にて稼働する排水処理システムの数は約50万か所に上り、そのうち90%が浄化槽を利用している。
- 排水処理システムの建設や運用の不備が原因で、家庭用井戸が有害なバクテリアやウィルスに汚染される可能性がある。また、窒素やリンが過剰に放出されることで、河川や湖沼、海域を汚染する場合もある。
- 地方自治体は毎年1,000か所以上に上る排水処理システムを点検(検査)している。検査の結果、建設や保守に欠陥/不備が判明し、検査不合格となる排水処理システムは全体の約半数を占める(不備の理由の内訳は下図)。検査不合格となった排水処理システムの約3分の1は未だ修繕が行われておらず、そのうちの大部分は2017年以前に点検が行われた。
図 浄化槽の不備の理由
(出典:Domestic Waste Water Treatment Systems 2017-2018)
- 一般家庭に対する要件として、排水処理システムの建設や保守を適切且つ確実に行う。検査不合格となった場合は該当する排水処理システムを修繕する。また一般家庭の生活排水による家庭用井戸の汚染を確実に防止する。
- 地方自治体に対する要件として、検査不合格となった排水処理システムを設置住民が確実に修繕するための適切な対策を地方自治体が講ずる。最良のプラクティス(実践方法)を実施するよう市民に呼びかけるためにパブリックエンゲージメントを継続する
EPA環境規制執行局長(Director of the EPA Office of Environmental Enforcement)Tom Ryan氏は、「浄化槽の保守が不十分である場合、自身や隣人が設置した家庭用井戸や地域の水域が汚染される可能性があり、設置者自身やその家族、隣人に対して健康リスクを引き起こす。浄化槽の保守を行う最も簡易な方法としては、水域への漏水や放流を確実に防止し、浄化槽を定期的に掃除することである」と述べた。またEPA環境規制執行局の上席科学者Noel Byrne氏は、「欠陥が判明した場合、設置者(一般住民)は該当する排水処理システムを修繕することが重要である。水質改善に向けて、政府は今年下半期、汚水処理タンクの修繕に向けた補助金増額を提案している。補助金の最大付与額は1世帯当たり5000ユーロ(約60万3314円)まで増額されるほか、政府が補助金申請者などに対して行う資力(資産)調査の実施要件は除外される」と述べた。
[1] 報告書の原文は以下よりダウンロード可能。
https://www.epa.ie/pubs/reports/water/wastewater/2017%20&%202018%20NIP%20Report%20Final.pdf