NRDC、飲料水の安全性を分析した報告書を発表

米ニューヨーク市を拠点とする自然保護団体NRDC(Natural Resource Defense Council)は2019年9月24日、米環境保護庁(EPA:Environmental Protection Agency)のデータに基づき、米国における飲料水の安全性を分析した報告書“Watered Down Justice”を発行した[1]。その結果、安全な飲料水が全ての米国民に対して平等に供給されておらず、特に有色人種や低所得者は安全な飲料水にアクセスできていない傾向にあると科学的に結論付けられた。

今回の報告書は、NRDCに加えて、Coming CleanやEnvironmental Justice Health Alliance(EJHA)といった環境保護団体により共同策定された。ミシガン州フリントやニュージャージ州ニューアークといった多くの有色人種(黒人)が居住する地域では、飲料水の汚染が問題視されている。人種差別や居住の棲み分け、貧困地域への不十分なインフラ投資といった歴史的背景が、飲料水の汚染問題に起因しているという普遍的概念が立証された。米国安全飲料水法(Safe Drinking Water Act)の遵守が長年に亘り放置され、同法律が効率的に施行されていないという問題は、人種と密接に関わっていることが明らかとなった。

同報告書において2016年から2019年までのEPAデータを分析した結果、水道業者による飲料水法規制の常習的な違反行為は、有色人種の居住地域を対象とした上水道システムの方が40%高いとされた。また、その違反に対する是正措置が講じられた場合でも、有色人種の地域の方が是正により時間がかかる。一方、米国では一部の有害汚染物質は規制対象外であるなど、飲料水の関連法規制が首尾よく機能していないほか、上水道システムが老朽化、未整備、資金不足の場合は、飲料水の安全性がさらに悪化する。


図 全米での上水道の違反と有色人種の割合の関係
(出典:Watered Down Justice)

同報告書では、全てのコミュニティに対して安全且つ安価な飲料水を供給するために、以下の提言を行っている。

  • 上水道インフラプロジェクトの特定、関与、財政支援を開始することで、有色人種の居住地域を対象とした安全な飲料水へのアクセスを劇的に改善することを目的とした国家レベルの法律を整備する
  • 水質浄化法(Clean Water Act)及び安全飲料水法の規制対象となる有害汚染物質リストを拡充、産業及び農業活動を通じた排水管理を効果的に行うことで、水汚染を防止する
  • 全ての住民に対して安全な飲料水の供給を確実に行う法律を整備、施行する

一方、今回の報告書に基づく主な要点は以下のとおりである。

  • NRDC、EJHA、Coming Cleanが、全米各地を対象として現在稼働している地域の上水道システムを約5万カ所分析した。
  • 2016年6月1日から2019年3月31日までに収集されたデータを分析した結果、安全飲料水法の違反件数は約20万件に達した。
  • 水道業者による飲料水法規制の常習的な違反行為は、有色人種の居住地域を対象とした上水道システムの方が40%高い。
  • 居住地の棲み分けなどを始めとする様々な差別問題を背景として、特定の人種や地域を対象とした政府機関による上水道インフラへの投資が不十分である。その結果、有色人種や低所得地域では上水道インフラが老朽化、未整備、資金不足である。
  • 今回の分析において、連邦法に違反した上水道システムを通じて飲料水が供給されている米国民の数は約1億3000万人に上る。
  • 上水道システムを対象とした違反件数のうち80%以上が、水供給人口3300人未満といった小規模な上水道システムで発生している。このような小規模な上水道システムを通じて飲料水が供給される住民は、低所得者や社会的弱者である可能性が高いとEPAは分析している。
  • 一部の有害汚染物質は規制対象外であるほか、飲料水の安全性に関するデータを全く報告していない水道事業者も存在するなど、飲料水の関連法規制が機能していない。そのため、全米で数多くの住民に供給されている飲料水の安全性が脅かされている可能性がある。

[1] https://www.nrdc.org/sites/default/files/watered-down-justice-report.pdf

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