タイ関連法令:
- 水資源管理の現状
- 主要法規制の概要(本ページ)
- 水質に関する環境基準
- 産業排水基準
- タイの水市場動向
1)主要な法規制
タイにおいて、水質管理の中心となる法律は、国家環境保全推進法(Enhancement and Conservation of National Environmental Quality Act, B.E. 2535 (1992))である。すでに述べたとおり、本法は水に限らず大気や廃棄物など、様々な分野における環境管理の原則について定める環境基本法である。また、以下の法令も水質汚染あるいは水資源管理に関わる重要な法規である。
- 工場法(Factory Act 1992)
- 工業団地公社法(Industrial Estate Authority of Thailand Act 1979)
- タイ国水域航行法(Navigation in Thai Waters Act 1913)
- 地下水法(Groundwater Act 1977)
以下、これらの主要法規について概説する。
仏暦2535年(1992年)に制定された国家環境保全推進法(Enhancement and Conservation of National Environmental Quality Act, B.E. 2535 (1992))は様々な分野をカバーする包括的な環境基本法であり、国家環境委員会(NEB)に対して、河川や湖沼、沿岸海域、地下水等を含む各種環境基準を定める権限を付与している(第32条)。本規定に基づき、タイでは水や大気、土壌、騒音等に関する環境基準が定められている。
また本法の第4章第2部は排出基準について定めており、天然資源環境大臣に対して、排気や排水等に関する汚染物質の排出基準を官報で公布する権限を与えている(第55条)。本条項に基づき、同国では産業施設からの排水基準が設定されている。
加えて、本法の第4章第5部は水質汚染について規定しており、天然資源環境大臣に対して、廃水の環境中への排出に関して、排出基準を超えないよう規制すべき汚染源のタイプを定める権限を与えている(第69条)。汚染物質を排出する施設の所有者は、排水処理設備や廃棄物処理設備を設置する、あるいは地方自治体が運営する共同排水処理施設または共同廃棄物処理施設を利用することが義務付けられる(第70~72条)。
工場法(Factory Act, B.E. 2535 (1992))は、工場の操業管理について規定する法律である。本法は、工業大臣に対して、廃棄物や汚染物質の排出を管理するための基準や方法を定める権限を与えている(第8条)。また、本法の下位法令である“工業省令:仏暦2535年(1992年)第2号”は、排水に際して、希釈以外の方法によって処理を行い、工業大臣が規定する排水基準を満たすよう要求している(第14条)。加えて、排水処理システムを設置している工場に対しては、水処理に係る消費電力を記録するとともに、化学処理あるいは生物処理を施す場合には、化学薬剤あるいは生物製剤の毎日の使用量を記録するよう求めている(第15条)。
前述の通り、国家環境保全推進法は天然資源環境大臣に対して、産業別の廃水における排出基準を定める権限を与えており、実際に産業排水基準が定められている。また前述の“工業省令:仏暦2535年(1992年)第2号”は、工業大臣が定める排水基準を順守するよう規定している。この結果、同国では工場法および国家環境保全推進法の下で2つの産業排水基準が設定されているが、これらは同一の内容となっており、事実上は単一の基準である。
タイ工業団地公社法(Industrial Estate Authority of Thailand Act, B.E.2522 (1979))は、工業団地の造成あるいは運営のために制定された法律で、本法に基づき、1979年、タイ工業団地公社(IEAT:Industrial Estate Authority of Thailand)が設立された。
IEATが管理する工業団地においては、中央排水処理場の整備が前提となっており、各工業団地における中央排水処理施設への流入水質基準が本法の下位法令“タイ工業団地公社告示:仏暦2554年(2011年)第78号”によって定められている。ただし、中央排水処理施設の整備状況等によって独自の基準が設定されている可能性もあり、進出の際には個々の工業団地に問い合わせる必要がある。
タイ国水域航行法(Navigation in Thai Waters Act B.E. 2456(1913))は、水上交通に影響をおよぼす行為や妨害となる行為を防止することを目的に1913年に制定された非常に古い法律である。ただし、本法は、これまで10回にわたって改正されており(最新の改正は2007年)、いまだに有効な法律である。本法を所管するのは、運輸省海事局(Ministry of Transport, Marine Department)である。
本法は、大きく3部に分けられており、第1部(第12~133条)は航行ルートや港湾、停船、化学物質やその他汚染物の投棄等について定めている。また、第2部(第137~187条)は小型船舶のライセンスやルート等について規定し、さらに、第3部(第189条~312条)は貨物船に関する事項等について定めている(第134~136条および第188条については廃止)。
本法の環境管理に関する有名な条項として、第117条および第119条がある。これら条項の内容は以下の通りである。
- 第117条:
いかなる者も、海事局の許可なしに、河川や運河、湖沼等の水系に、船舶の航行を妨害する建築物を建造してはならない。 - 第119条:
いかなる者も、海事局の許可なしに、船舶航行等に利用されている河川や運河、湖沼等の水系に、岩や石、砂、廃水、石油や化学物質を含む廃棄物を投棄して、それらの堆積あるいは市民の健康に害をもたらしてはならない。
これらの条項をベースに、海事局は河川の水質汚染管理に携わっている。しかし、実際には現場で取締りを行う監査官が不足しており、法の執行面では課題が残っている。
1977年、タイは、アジアでもいち早く地下水法(Groundwater Act B.E. 2520(1977))を制定した。1992 年、2003 年に2度改正されている本法は、地下水資源の保護および保全を目的に制定された法律であり、地下水資源の利用や井戸掘削の管理、地下水の涵養等について規定している。本法を所管するのは、天然資源環境省地下水資源局である。
本法に基づき、同国では、地下水採取量がその涵養量を上回る “地下水管理区域(Critical Groundwater Zone)”が指定されている。また、井戸の掘削や地下水の私用目的における使用に対するライセンス制度が導入され、地下水の取水制限値や使用料金も設定されている。
ちなみに、本法の下位法令である“環境天然資源省告示:仏暦2551年(2008年)公衆衛生および環境に及ぶ危険を防止するための技術標準および措置”では、飲用目的で利用される地下水の水質基準が設定されている。
2)水系への排水許可について
タイ国水域航行法(Navigation in Thai Waters Act B.E. 2456(1913))に基づいて発布された“海事局告示:仏暦2534年(1991年)第67号「流域へのすべての種類の排水許可申請」”は、河川、運河、池、湖沼あるいは領海へ排水を行うすべての種類の事業、建築物について、海事局に許可申請を行うよう定めている。許可申請に際しては、水質検査を行い、その水質が排水基準を超えている場合には、これを改善しなければ、排水許可を得ることはできない。