ベトナム関連法令:
ベトナムでの水資源の問題に関しては、やはり近年の工業化に伴う水質汚染が顕著である。天然資源環境省の報告によると、国内で1日当たり平均24万m3もの工業団地由来の廃水が未処理のまま環境中に流れ出し、至るところで深刻な環境汚染の原因となっているという。国内全体の4割近くの工業団地に集中廃水処理施設が整備されていないこと、また残りの6割についても処理施設の運転コスト節約のために未処理のまま排水していることが、水質汚染の背景にはある。
地表水の汚染については、ベトナムで水質汚染が報告されているのは主に河川であり、その汚染源となっているのが産業排水と生活排水である。例えば、ベトナム南部のサイゴン川では、流域の工業化が進んだために、ここ数年水質汚染が深刻化しており、これによりホーチミン市への水供給が懸念されている。サイゴン川はビンズオン(Binh Duong)省、ビンフォック(Binh Phuoc)省、ティニン(Tay Ninh)省を流れており、その流域に40の工業団地が存在している。しかし、そのうち廃水処理施設があるのは21か所のみで、それらの廃水処理施設からの処理水も環境基準を満たしていないものがほとんどである。さらにそこに生活排水が加わることで、汚染の度合いは増している。また、一般的に、乾季になって水量が不足すると汚染濃度は上昇することもわかっている。主な汚染物質としては、以下のものが挙げられる。
- 懸濁物質(TSS:Total Suspended Solid)
- 生物化学的酸素要求量(BOD5)
- アンモニア性窒素(NH4+-N)
- 重金属
一方で地下水については、地表水と同様に工業団地からの排水が汚染の主要因となっている。またこれに加え、最近では地下水位の低下も問題になっている。例えば、ホーチミン市では2011年に、地下水位が地下4.6 mまで下がったことが明らかになった。このような地下水位の低下によって、地盤沈下はもちろんのことだが、汚染物質の流入量の増加や、塩水の流入量の増加が考えられるため、さらに水質悪化に拍車をかける要因となるだろう。
また海水に関しては、目立った汚染例は少ないものの、国内の工業化がすすむことで特に沿岸域での汚染が危惧される。また沿岸部での産業(例えば観光業や漁業)が発展するにつれて、それにともなう廃棄物の増加によっても海洋汚染は助長されると見込まれている。
以上挙げたように、水質汚染には産業排水が密接に関わっており、近年のベトナムの工業化を象徴している。産業排水が水質汚染の主要因となる背景は2つあり、1つは企業の環境への意識が低いこと、もう1つは当局による罰則が甘いことである。ハノイ市での排水課徴金未払いの問題は、これを如実に表している。ハノイ経済大学によると、ハノイ市の企業453社を対象とした調査によって、2009年から2011年にかけて、排水課徴金の支払い総額が6億8300万ドン(約253万円)から6200万ドン(約23万円)に減少したことが明らかになった。企業自身の環境認識の低さはもちろんのこと、課徴金未払いに対しての罰金額の少なさもその要因であろう。
なお、ベトナム商工省が発表している都市排水と工業団地排水の今後の予測は下図の通りである(2015年~2030年は予測)*1。今のところは都市排水の方が工業団地排水よりも多いが、今後は後者が急激に増加し、2020年代後半にはその排水量が逆転するものと見込まれている。
*1 https://www.env.go.jp/air/tech/ine/asia/seminar/files/H250220/3_Tam.pdf