MIT、空気中の水分から飲み水を生成する革新的技術を開発

マサチューセッツ工科大学(MIT:Massachusetts Institute of Technology)及びカリフォルニア大学バークレー校(University of California at Berkeley)の研究者は2017年4月14日、空気中の水分を直接飲み水に変える革新的技術を開発したと発表した[1]。世界の多くの地域では水不足に直面しており、人口増加と地球温度の上昇により水不足が深刻化することが今後見込まれている。そのため、今回開発された技術は、乾燥地帯を含む地球上どの場所でもクリーンな飲み水を生成できるとして注目を集めている。

 

図 開発された技術の概念実証モデル
(出典:MITホームページ[2]

 

今回新たに開発された革新的技術は、泡状に似た物質の気孔に空気中の水分を取り出し、太陽熱で自動的に作動する。金属有機構造体(MOFMetal Organic Frameworkの1つの種類であり、内部に大きな表面があるスポンジと同様の形状を有する多孔質材料を活用する。同材料の化学組成を微調整するだけで、その表面が水を吸収しやすくなる。太陽熱を吸収するために表面の上部を黒く塗るほか、表面の下部は外気温と同じ温度を維持する。表面の上部と下部との間に同多孔質材料を挟むと、気孔から蒸気が放出され、温度と濃度の差によって水滴がしたたり、同材料の下部の表面に水分を収集することができる。研究チームによる試験では、多孔質材料1キログラムあたり1日に約3クオートの真水を回収でき、湿度20%程度の乾燥した空気からでも人間1人に必要となる飲用水を十分に確保することが可能となる。また、様々な金属を有機化合物に混合することで多様多種な組成を持つMOFを生成できるため、化学組成を単に微調整するだけで、容易にMOFを生産できる。現時点で2万種類以上に上るMOFが生成されている。

同大学の研究者によると、今回新たに開発された革新的技術は、空気中に含まれる水蒸気(湿度)の比重にかかわらずどの場所でも実質利用できる潜在性を有しているという。湿度の高い空気から水分を抽出する技術「霧収集システム(fog harvesting system)」が、チリやモロッコなどの多数の国にて既に導入されている。しかし同システムを利用するには、湿度100%の非常に湿った空気であることが必須条件となるため、利用可能な地域は非常に限定的である。また、乾燥地域では、夏の暑い日に冷やされたガラスの外側に結露する原理を生かして、表面を冷却し凝結する露(結露)を収集する「露収集システム(dew harvesting)」を利用できるものの、表面の冷却に大量のエネルギーを要することが課題である。また、湿度約50%以下の条件では同システムは機能しないなどの制約も存在する。

このように、湿度約20%程度の砂漠地帯の乾燥した空気から水分を収集する現実的な方法は従来存在しなかった。しかし、今回開発された新技術は、外部電源による電力供給が不要であるほか、システムの部品を移動しなくとも、太陽光さえあれば自動的に空気中から水分を回収することができる。厳密には太陽光でなくとも、木材の燃焼などのある程度の熱源があれば機能するため、燃焼用バイオマスが利用可能となり水不足の地域であれば同技術が活用できるとして注目を集めている。

[1] http://science.sciencemag.org/content/early/2017/04/12/science.aam8743

[2] http://news.mit.edu/2017/MOF-device-harvests-fresh-water-from-air-0414