中国の都市部生活排水事業における動向分析と発展方向

近年、中国政府は生活排水事業を推進し、都市部を中心に汚水処理施設の整備が加速され、排水処理率が向上し、目にみえる成果を挙げている。大都市の排水処理事業の前進に伴い、排水処理事業は大都市から中小都市へ、沿海部経済が比較的発達している地域から中西部へ、さらに、都市部を中心に集中処理施設の建設から更新・維持といった方向に向かっている。

本稿は、最新の統計データおよび政策・市場動向の整理、解説を踏まえ、2016年から始まった第13次五カ年計画期間中(2016-2020年)の都市部生活汚水処理市場の特徴および発展方向を分析・解説するものである。

 

1. 中国生活汚水の排出と処理現状

1.1 生活排水処理率の向上

経済発展、生活レベルの向上および都市化の進行に伴い、都市部の生活排水排出総量は年々増加傾向にあるが、それにも増して排水処理施設の整備は更にハイスピードで進み、都市部の生活排水処理率は10年連続で向上している。住宅建設部の発表によると、2017年度、中国の大中都市(657の設市都市が統計対象)の汚水排出総量は492億m3、汚水処理量は465.49億m3、汚水処理率は94.54%に達した(前年度より1.1%増加)。また、2017年度県城都市(2844県庁所在小都市を統計対象)レベルの汚水排出総量は95.07億m3、汚水処理総量は87.77億m3、汚水処理率は90.21%であった(前年度より2.83%増加)。


図 2007-2017年中国都市県城の汚水排出総量(億m3)と汚水処理率(%)の推移
(出典:中国住建部データ)

中国大中都市の汚水処理率は2014年に90%を突破して以降、年々増加している。一方の県城の汚水処理率も、「十一五」(2006-2010年)時期から急速に改善し、2017年にはすでに90%を越え、大中都市の汚水処理率との差も縮小している。2016年12月に中国国務院が公布した「『十三五』全国城鎮汚水処理及び再生利用施設建設計画」では、全国の都市と県城における汚水処理率の2020年の目標はそれぞれ95%、85%と設定された。上記の通り、2017年都市汚水処理率は94.54%に達し、今後も引き続き増加すれば、2020年までに目標を達成できると見られる。また県城の汚水処理率については、既に2015年には85.22%に達し、2020年の目標を5年前倒しして達成した。

 

1.2 建設重点地域の変化:都市・県城から鎮へ、東部から中西部へ

大中都市および県城の生活排水処理率の改善とともに、近年中国は鎮レベルの小都市における生活排水処理整備事業に力を入れている。汚水処理施設の数からみれば、2017年末までに中国都市汚水処理場は2209箇所に達し、前年より170箇所増加した。1日当たりの処理量は1億5743万m3であり、前年比5.59%増となっている。また、同年の中国県レベルの汚水処理場は1572箇所であり、前年より59箇所増加した。1日当たりの処理量は3218万m3であり、前年比5.59%増である。それに対して、鎮レベル(建制鎮[1])の汚水処理場は4810箇所で、前年より1401箇所増加した。1日当たりの処理量は1383.69万m3である。下図は、都市、県、鎮のそれぞれにおける汚水処理場の数の推移を示したものである。


図 2014-2017年中国都市部各レベルの汚水処理場の数の推移(単位:箇所)
(出典:中国住建部データ)

一方で排水処理率についてはいまだ大きな開きがある。2017年における鎮の排水処理率は49.35%に留まり、都市や県城と比べるとその普及状況は悪いと言える。「『十三五』全国城鎮汚水処理及び再生利用施設建設計画」では、2020年までに建制鎮の汚水処理率として70%、中西部では50%に達するという目標が打ち出されているものの、現状からみれば目標との距離は大きく乖離している。

地域ごとに見ると、2017年各地域間の都市汚水処理率の格差は小さく、最も低い青海省でも79%に達した。また、県城汚水処理率の地域別格差も比較的小さく、チベット自治区(18.77%)以外のその他の地域は70%を超えていた。その一方で、鎮レベルの汚水処理率の地域間格差は非常に大きい。具体的には、上海市、江蘇省、山東省の鎮レベル汚水処理率はそれぞれ90.07%、76.05%、71.84%であるが、中西部にある雲南省、新疆ウイグル自治区、青海省はそれぞれ11.59%、15.93%、0.85%である。全体的に言えば、沿海部地域での処理率は中西部、東北部を大きく上回っている。


図 2017年各地域の鎮レベル汚水処理率(%)

 

2. 重要政策動向

2015年4月、中国国務院は「水10条」と呼ばれる「水汚染防止行動計画」を公表し、都市部水汚染対策など水汚染主要分野における今後15年間、特に2020年までの目標と主な任務を明確にし、水汚染防止・改善事業を幅広く展開するようになった。

その後2016年以降、新たな関連政策も打ち出され、政策体系が整備されてきた。

 

2.1 「十三五」期間での具体的な目標の明確

2016年12月、中国国務院は「『十三五』全国城鎮汚水処理及び再生利用施設建設計画」(以下、「計画」)を公布し、「十三五」期間中(2016-2020年)の汚水処理事業の具体的な発展目標を打ち出した。これらの具体的な目標の下、各地域は汚水処理事業を展開し、期限通りに目標を達成しようとしている。

  • 2020年まで、都市汚水処理率は95%に達する;
  • 2020年まで、県城汚水処理率は85%に達し、東部地方はできるだけ90%に達する;
  • 2020年まで、鎮汚水処理率は70%に達し、中西部地方はできるだけ50%に達する。

それから、政策体系の最終化および政策の実施により、2019年現在、都市部汚水処理分野では、汚水処理率の向上などを含み、上記のような成果が挙げられている。

 

2.2 「排水処理の質・効果向上三年行動」の展開

2017年、「三大攻堅戦」(金融リスク・脱貧困・環境対策という3つの戦い)が第十九回党大会報告で打ち出され、「汚染防止攻堅戦」が始まった。その後、一連の汚染防止攻堅戦に関する政策、実施案などが次々に発表された。

2018年6月、中国国務院は「全面的な生態環境保全の強化 汚染防止攻堅戦の堅実的な展開に関する意見」を打ち出し、都市・県城・鎮汚水処理「提質増効(質・効果向上)三年行動」の実施を提出した。それに続いて、2018年10月、「城市黒臭水体治理攻堅戦実施方案」が住建部および生態環境部により発表され、初の水汚染防止攻堅戦実施方案となった。同方案では、生活汚水をできる限り都市生活汚水収集処理システムで収集し、統合的に基準通りに処理してから排出すること、生活汚水処理施設が完備していない地域において、施設の新築・改築・増築を加速することなど、生活汚水処理に関する要求を提出した。

2019年4月、住建部、生態環境部、発展改革委員会は「城鎮汚水処理提質増効三年行動方案(2019-2021年)」を公布し、正式に提質増効三年行動の具体的な目標、要求などを発表した。主な目標はとして、3年後、市レベル以上の都市建設地域において生活汚水直接排出口を全て廃止し、旧市区と都市農村接続地域の生活汚水処理施設なしの状況を基本的に改善し、都市生活汚水集中収集効率を著しく向上させることである。

 

2.3 汚水処理新規プロジェクトPPP方式の全面実施

生活排水分野では、以前からBOTやTOTなどPPP方式の活用が多い。2017年7月、住建部、農業部、環境保護部(現、生態環境部)は共同で「政府参加の汚水、ゴミ処理プロジェクトにおいて全面的にPPP方式を実施することに関する通知」を発表した。同通知では、政府が参加する汚水処理・ごみ処理新規プロジェクトは全面的にPPP方式で実施するという目標を打ち出した。「政府が参加する汚水処理新規プロジェクトは全面的にPPP方式を実施する。進行中のプロジェクトを徐々にPPP方式に転化させる」などの内容が規定されている。

これらの一連の政策を分析すると、中国政府は都市部生活汚水処理分野では、明確な発展目標を打ち出し、その目標を達成するため、具体的な実施方案を発表し、関連建設プロジェクトの実施方式について規定し、生活汚水処理事業を計画的に展開していることが分かる。

 

 

3. 市場の特徴

中国都市部生活汚水処理の変化及び新しい関連政策の発表につれて、生活汚水処理ビジネスの市場にも新しい変化が現れている。

 

3.1 鎮レベルの市場ニーズが高まる

上記の通り、近年の都市・県城汚水処理事業は順調に進んでいるため、汚水処理率は上昇し続け、新規処理施設建設関連市場は飽和状態の段階に達しているとも言える。その一方で、鎮レベルの汚水処理率は2020年目標と比べてもいまだに大幅に低く、地域間格差も激しい。そのため、鎮レベルの汚水処理分野では、市場ニーズが明らかに高まっている。ただし、鎮レベルの建設規模は都市・県城より小さいため、汚水処理をその他の環境対策に加え、総合環境プロジェクトとして建設することが多くなっている。例を挙げると、湖北省江陵県内荊河の改善と郷・鎮給水及び汚水処理PPPプロジェクトは鎮汚水処理、給水、水環境総合改善、関連園林景観施設の建設を一つの大きなプロジェクトにまとめ、PPP方式で行っている。

また、同地域におけるいくつかの建設規模の小さい鎮の汚水処理プロジェクトをまとめ、あるいは県内すべての鎮のプロジェクトをまとめてから実施する方式も現れている。このような多種総合環境プロジェクトと地域統合汚水処理プロジェクトは、政府と出資者にはメリットがある。出資者が多くない場合には、政府による監督管理には有益であり、また、出資者も規模の大きいプロジェクトを確保することで利益を獲得できる。そのため、契約金額が億元以上を突破した鎮汚水処理関連PPPプロジェクトが相次いで現れた。なお、このような金額の大きいプロジェクトは複数の企業で構成される共同体が落札するケースが多い。中堅企業にとっては資金負担が大きいため、大手企業と協力し、互いに資金面や技術面の長所を生かし、共同でプロジェクトを落札し、建設するケースが多くなっている。

表 2018年鎮レベル生活汚水処理関連PPPプロジェクトの実例

No. プロジェクト名 契約金額(億元) 社会出資者 主な内容 方式
1 安徽省太和県郷鎮政府駐地汚水処理建設プロジェクト 10.50 北京碧水源科技有限公司、北京久安建設投資集団有限公司、南京市市政設計研究院責任公司 26箇所汚水処理施設及び27鎮の汚水収集水管網の建設 BOT
2 湖北省襄陽市漢江水環境保護建設プロジェクト(第二期郷鎮汚水収集処理工程) 16.70 啓迪桑徳環境資源股份有限公司、北京桑徳環境工程有限公司、湖北漢江環境投資資源有限公司など 郷鎮汚水収集処理工程の設計、建設など BOOT
3 江蘇省如東県郷鎮汚水処理場及び農村水環境総合治理一期工程PPPプロジェクト 29.50 中建水務環境有限公司、北京桑徳環境工程有限公司 如東県7鎮の生活汚水処理など 主にBOT、一部はTOTとROT
4 広東省信宜市水質浄化施設総合PPPプロジェクト(3つのプロジェクトの統合) 17.21 雲南水務投資股份有限公司などの連合体(2つのプロジェクト);シンセン市鉄漢生態環境股份有限公司(3つ目のプロジェクト) 信宜市東区、西区、北区(総計18鎮)の水質浄化施設の建設など DBFOT

 

3.2 更新・改修を中心とする新規プロジェクトの増加

一方、大中都市の場合、汚水処理事業は生活排水処理施設の数・処理能力を単純に増やす段階から徐々に変化し、政策方針による促進の下、既存汚水処理場の改修、配管ネットワークの補完などの分野に力を入れている。2015年の「水汚染防止行動計画」では、「敏感地域」(重点湖沼、重点貯水池、近隣海岸集水区)の都市部汚水処理施設が2017年までに全面的に1級A排出基準に達するという目標が掲げられた。その後、北京、天津、広東省など、各地域は次々と都市部汚水処理施設排出地方標準を発表し、自らの地域の状況と合わせ、基準値を引き上げた。それに伴い、排出基準達成のために汚水処理施設の更新・改修案件も増えた。

また近年では、汚水処理場を大量に建設したが、ネットワーク管路の配備が追いついていない状態である。合流式下水道(汚水と雨水を同一の管渠系統で管理)が多くの都市で採用されている。合流式下水道は、一定量以上の降雨時に未処理下水の一部がそのまま放流されるため、汚水処理の効果に悪い影響を及ぼす。また、一部の都市のうち新規開発された地域では分流式下水道を採用したが、パイプの接続方法が正しくないなどの問題により、分流効果はよくない。

そのため、政府は資金面でのネットワーク管路の完備に向けた支援を始め、管路配備に関する汚水処理施設改造プロジェクトが多くなっている(下表は例)。2019年4月、住建部、生態環境部など中央3省庁が共同で、「都市部排水処理提質増効4年行動方案」を公表し、排水処理施設の改修、配管建設の加速および管理制度の健全化を促した。

 

表 2019年都市部汚水処理施設グレードアップ関連PPPプロジェクトの実例

No. プロジェクト名 契約金額(億元) 社会出資者 主な内容 方式
1 山西省黎城県汚水処理センターグレードアップ改造工程PPPプロジェクト 1.15 北京碧水源科技有限公司、北京久安建設投資集団有限公司 黎城県汚水処理センターグレードアップ改造、県城生活汚水配水管布設 ROT
2 雲南省曲靖市麒麟区城南片区汚水処理場ネットワーク管路配備工程PPPプロジェクト 2.45 北控水務(中国)投資有限公司、中鉄上海工程局集団有限公司 汚水管55キロメートルの布設 BOT
3 山東省淄博市汚水処理プロジェクト(3つのプロジェクトの統合) 10.47 中国光大水務有限公司 淄博第一汚水処理場の移転・増築、第二、三汚水処理場のグレードアップ改造 BOOT+BOT
4 四川省蒲江県域汚水処理場及びネットワーク管路布設工程PPPプロジェクト 8.7 海天水務集団股份有限公司、龍元建設集団股份有限公司、中国市政工程西北設計研究院有限公司、江蘇南京地質工程勘察院 汚水管118キロメートル、雨水管115キロメートルの布設など BOT

+ROT

+TOT

 

終わりに

中国の都市部排水処理事業は、長年、政府の直接推進によって大きく発展し、都市部生活排水処理関連インフラ整備も大中都市を中心に、目に見える成果をあげている。2018年に中央政府が打ち出した「汚染防止攻堅戦」により、排水処理関連インフラ整備事業が中西部、中小都市を中心としてさらに加速され、また既存施設の改修事業、配管ネットワークの敷設事業も各地で展開されている。

当面、中国の都市部排水処理関連インフラ整備分野はスピードを保って、発展していくと見られているが、一方、「十四五」時期(2021-2025年)においては、大規模な集中建設期をほぼ終え、新たな発展段階に移るとみられ、例えば水質の向上のための改修、既存施設の低コストで効率的・安定的なメンテナンスなどの分野が重視され、有望分野になると考えられる。

[1] 建制鎮:省レベル政府により正式に承認・設立し、鎮レベルの行政管理部門が設けられる小都市である。それに対し、規模が比較的小さく、県レベル政府が承認とする「非建制鎮」の小都市も数多く存在する。2017年度には、全国範囲で18099箇所の建制鎮が住建部の統計対象となっている。

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