欧州委員会、都市下水処理指令の実施状況をまとめた第5回報告書を公表

2009年8月現在27の加盟国を擁する欧州連合(EU)の人口は約5億人に達しており、それに伴い住民や産業により排出される下水は欧州地域の水系、すなわち地下水、河川、湖沼及び海水の主たる汚染源となっている。下水がそうした水系に排出されることによって富栄養化を引起し、生物多様性の喪失が加速化されることになるとともに、飲料水供給にも影響を及ぼし、ひいては公衆衛生面への影響が懸念されるに可能性がある。さらに、こうした悪影響が生じれば、観光産業など経済セクターにも甚大な被害がもたらされる恐れがある。

 

1991年5月21日に制定された「都市下水処理指令」(閣僚理事会指令91/271/EEC;1998年2月27日に欧州委員会指令98/15/ECにより修正)は、2000人以上の人口を有する全ての住居エリアや経済活動エリア(集団区域)における下水の収集と処理を義務付けることによってこれらの悪影響を解決しようとしたものであった。この指令の実施は、加盟国政府にとって大きな財政的負担を強いるものとなっている。そこで、統合政策基金(Cohesion Policy funds)が重要な資金援助策としてEU域内の下水処理プラントに資金の一部を提供している。

この都市下水処理指令を完全実施することは、2000年10月23日に公布された「水枠組み指令」(欧州議会及び閣僚理事会指令2000/60/EC;2000年12月22日にOJL327により修正)により設定された目標を達成する上で欠くことのできないものとされている。その目標とは、EU域内の全ての水質が2015年までに生物学的に健全な状態といえるレベルに確実に達するようにするというものである。

 

同指令は、生物学的な下水処理方法(二次処理)についても規定しており、下水中の生分解性汚染物質をほとんど削減するよう求めている。富栄養化の被害を受けている水域や(水浴びや飲料水の取水など)他の目的のために利用されているエリアなど、特に影響を受けやすい水を貯めている集水池の場合(脆弱エリア)、栄養素(主に窒素やリン酸)や細菌による汚染を抑制するために一層厳しい処理方法が要求されている。

 

EU‐15加盟国(2004年以前の加盟国):
同指令の全ての期限が既に過ぎており、したがって下水の収集及び処理が同指令が対象としている地域内の全ての区域で既に行われていなければならない。

EU‐12加盟国(2004年と2007年に新規加盟した12カ国):
対象区域の人口密度や規模あるいは排水エリアの特性などを勘案して、特定の区域に対しては一定の過渡期間が認められている。

「1991年都市下水処理指令」の実施状況に関するアンケート調査の分析結果(2009年8月3日欧州委員会が公表)

  • アンケート調査は、「欧州水情報システム(WISE)」の下で欧州委員会と加盟国との合意に基づき実施された。
  • アンケートは2007年6月に27加盟国全てに送付された。2008年11月30日までに受け取った回答が分析結果に反映された。27カ国のうち完璧な回答をくれたのは18カ国のみであった。

【分析結果】

現状:

  • EU 27加盟国には人口2000人以上の区域が23000箇所以上存在する。
  • これらの区域では約6億人に相当する下水が生じている。
  • EU27加盟国地域全体の68%が「脆弱エリア」と見做されている

下記のデータは完璧な回答を提出した18加盟国のデータを基にした分析結果である。

対象区域と汚染状況:

  • 対象区域13734(18カ国)のうち、150000人以上の大都市は2%たらずだが、汚染物質全体の40%を発生している
  • 人口2000~10000人の区域の66%が、汚染物質全体の13%を発生しているに過ぎない

インフラ整備状況

  • 収集システムの整備率は下水全体の93%
  • 二次処理施設の整備率は87%
  • それ以上の厳しい処理施設の整備率は72%

大都市部

  • 人口150000以上の約300の大都市では、1億3000万人分の下水が生じている
  • 下水の98%以上が収集されている
  • 下水の90%が二次処理もしくはそれ以上に厳しい処理設備を備えている。但し、少なくとも8%は二次処理さえ行なっていない(約1000万人相当)
  • 10の大都市(520万人相当)では二次処理を全く行なっていない

指令遵守状況

-回答した18加盟国のうちの10加盟国(オーストリア、ベルギー、デンマーク、フィンランド、フランス、ドイツ、ルクセンブルグ、オランダ、ポルトガル及びスウェーデン)は規制対象区域の全てで下水収集処理施設を2005年12月31日までに設置するよう要求されていた。スロバキアは一部の区域のみを対象に下水収集処理施設を2005年12月31日までに設置するよう要求されていた。

各種設備の遵守状況:

  1. 収集設備: 99
  2. 二次処理設備: 86
  3. 一層厳しい処理設備: 85

結論

全体として本指令の実施状況が大きく改善されているが、EU全域での下水処理の実態はまだ都市下水処理指令の目的を達していない重要な課題があり、「水枠組み指令」で求められている良好な状態とされる環境目標にもまだ達していない状況が見られる。

具体的な課題は;

  • EU-15加盟国の一部の国ではまだ二次処理設備を改善する必要がある。EU-12加盟国の一部は順調に本指令を実施しているが、他の国は依然実施をはじめたばかりの状態であり一層の努力が求められる。
  • EU-15加盟国の一部では一層厳しい処理設備要件に対する遵守率は極めて低く、指令の実施に向けて一層の努力が必要。(フランス遵守率は64%、ポルトガルは41%)
  • 大都市での実施状況は概して高い水準にあるが、本指令の実施を徹底するためにはさらなる努力が必要である。特に、6つの大都市(ポルトガルとルーマニア)では下水処理施設が全くない状況であり、また4つの大都市では2005年時点で一次処理設備しか設置されていなかった。

 

欧州会計検査院(European Court of Auditors)は2009年5月に出した報告書で、下水処理プラントの建設費をEU構造基金で支援することが、この指令の実施において重大な役割を果たしていると指摘している。

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