上下水道事業関係団体などの代表者によると、米国復興・再投資法(ARRA)(公法No. 111-5)の「米国品優先購入(Buy America)」規定(以下では、BApという)によって、関係事業者が貿易協定や統合された世界の製造システムとの整合性を保つ形でこの規定を満たす努力をしなければならなくなったので、BApは上下水道プロジェクトの進行を妨げている。
ARRAの第1605条によって、関係政府機関が公共の利益に反するという判断を下さない限り、この法律によって提供される景気刺激資金を用いた公共事業では、米国製の鉄、鋼鉄、そして製品を使わなければならない(これが、BApである)。
ただし、鉄、鋼鉄、および関連製品が米国で十分かつ無理なく入手できる量および満足のゆく品質で生産されていないか、米国で生産された鉄、鋼鉄、および製品を使うとプロジェクトのコストが25 %を超えて高くなる場合は、入札の受け手は免除を求めることができる。
行政管理予算局(OMB)は4月23日にBApを含むARRAのなかの財政援助の特定の要件にかんする暫定最終規則を発表し、6月22日までコメントを求めている。
BApに対して、さまざまな団体から批判が出ている。
【全米水質浄化局協会のNathan Gardner-Andrews弁護士】
この協会の会員は、上下水道プロジェクトに対する入札について懸念している。景気刺激ということに照らすと、BApは逆効果である。多くの下水処理場では、国内で生産されていないか、生産されていても大幅に高い、ポンプ、コンピュータ機器、電子部品、ろ過膜などが使われている。また、このような製品には、外国の会社製や部品を海外で製造している米国の会社製のものもある。このようなプロジェクトに米国製の製品を使うために、再入札をしたり、仕様書を書き直したりすると、非常に高くつく。
【上下水道機器製造業者協会(Water and Wastewater Equipment Manufacturers Association)」のDawn Champney会長】
最大の問題は、たとえば、米国に本拠のある会社が所有するカナダの会社が多くの米国の廃水処理場で使われている水処理技術を製造しているので、自治体政府が最良のもっとも費用効果的な技術を引き続き利用できないことになっていることである。BApは非常に悪い政策である。
【米国商工会議所(USCC: U.S. Chamber of Commerce)】
BApとその米国の雇用と国際貿易に対する影響を懸念する。BApは、柔軟性と透明性を欠いている。OMBがもっと具体的な指針を提供するよう望む。
[R. Bruce Josten USCC政府業務担当取締役副会頭(6月2日付の国会議員宛ての書簡のなかで)]
ARRAの資金は、連邦レベルでは、国際協定の米国の義務との整合性を保つ形で支出されているようだ。しかしながら、この資金を分配する地方政府は国際協定に縛られていないし、多くの州政府も同様である。
結果として、BApの要件は、州や地方の政府が管理するプロジェクトに大きな影響を与えており、貿易が落ち込み、米国の労働者の雇用が失われている。
このことは、特に米国の最大の貿易相手国であるカナダとのビジネスにおける協力関係に損害を与えている。
たとえば、上下水道プロジェクトにおいて、カナダの会社は米国の自治体政府の契約から締め出されており、カナダの自治体政府による報復によって米国の上下水道機器製造業者が30億ドル(約2900億円)の事業を失うこともありうる。
多くの米国の製造業者は、米国および外国の製造業者からの部品を取り込んだ世界の生産チェーンに頼っているので、他の国によってもたらされる製品の一部の使用を避けるということはほとんど不可能である。
【カナダ自治体連盟(FCM: Federation of Canadian Municipalities)】
BApは、自由貿易の精神に反している。
このような批判に対応するために、環境保護庁(EPA)は2009年6月2日、2008年10月1日とARRAが制定された2009年2月18日の間に入札されたプロジェクトに適用される次のようなBApの免除を発表した。
すなわち、この免除は、「僅少(de minimis)」免除と呼ばれているが、たとえば、ナットやボルト、ベルト、ガスケット、締め具、ねじなどのプロジェクトに付随する部品のコストがプロジェクトの総額の5 %以下であれば、免除されるというものである。
しかし、Gardner-Andrews氏は、このような免除は問題の一部にしか対応していないと述べている。
なお、USCCとFCMは、上記の問題を解決するために二国間交渉を求めている。