イタリアの水道事業へ民間資本の流入が始まる?

2010年5月、イタリアの公営公益企業Irideが投資ファンドのF2iと組んでミラノ証券取引所上場の水道会社Mediterranea delle Acqueを買収し、北イタリアの水道事業の中核を担う企業を作ると発表した。この動きは、これまで主に地方自治体が運営してきて行き詰まっているイタリアの水道事業への民間資本の流入を促すために、地方自治体に2011年から水道事業の事業権を民間に譲渡することを求めるRonchi法が成立して、始まるのではないかと見られていた民間資本流入の先陣を切る動きとして注目されている。ローマ市が51パーセントを所有するAceaやエミリオ・ロマーニャ州北部の自治体が50パーセント弱を保有するHeraといった官民共同出資の水道事業会社も、これを機にIrideのあとに続く可能性があると見られている。

1900年代の初めまでのイタリアの水道事業は、国内に1万以上もある地方自治体が個々に公共事業として運営するのを基本とし、事業内容も上水道、下水道、水処理などに細分化されていたために、技術面でも財政面でも完全に行き詰まっていた。このため、1994年に水道事業の統合と広域化を図るGalli法が制定された。これは、河川の流域ごとに自治体を束ねて最適規模事業体(ATO)という事業組合を設立し、上水道と下水道の事業を統合してその監督機関を各地域のATOに一元化し、各ATOが国の定めた料金設定システムに従い、受益者負担の原則のもとに料金を設定するようにするものだった。事業の運営形態としては、公営企業の直営、官民共同出資会社の運営、民間への委託の3つの方式が認められており、水道設備を所有する自治体がそれらの運営主体に事業権を譲渡するかたちがとられていた。

この方式のもとで、これまでのイタリアの水道事業の運営資金は、46パーセントが料金収入、17パーセントが公共投資(主に下水道、水処理施設、漏水個所の修復に当てられていた)、34パーセントが借入金、3パーセントが事業運営会社の株主からの出資金で賄われていた。だが、漏水によって水道設備容量の25~40パーセントにも相当する水の損失が生じるほど水道設備が老朽化してきて、向こう20年間に最低でも600億ユーロ(約6兆6000億円)の投資が必要になったのに公的資金が底をついたため、2009年11月に、水道事業会社と地方自治体との癒着を断ち、民間資金の流入を促すためにRonchi法が制定された。

この法律では、2011年以降、水道事業会社は民間の資本比率を40パーセント以上にしなければ、水道事業権への入札が認められないことになっている。また、落札した事業権も、事業会社の民間資本の比率が2013年6月末までに60パーセント以上、2015年末までに70パーセント以上になっていなければ、それぞれその段階で失効することになっている。このため、AceaやHeraといった官民共同出資の水道事業会社も、これから民間資本導入の動きを早めると見られているのである。

こうした状況を前にして、フランスの水メジャーSuez Environmentのイタリアでの事業を統括しているGiovanni Gianiは「イタリアは欧州で最も重要な市場のひとつ。この国には、水道事業の効率の面でも、そのサービスの価値を高める面でも、たっぷりと余地が残されているので、興味がある」と語っている。今のところ、イタリアで水道事業を行っている外国企業の中ではSuezがトップだが、そのライバルで世界最大の水メジャーであるVeoliaも、イタリアの水道事業権への入札を計画している。ただ、両社のイタリア代表の話によると、Suezはローマの水道会社Aceaへの出資比率を上げることを検討する可能性があるが、Veoliaはまだイタリアにおける事業買収の手続きを研究中だという。

今、イタリアの水道事業に投資した場合には、ATOが料金をもとに設定している7パーセントの利回りでしばらく我慢しなければならない。これは、欧州のほかの国と比べると低い水準に相当し、専門家の間では、巨大な企業グループでなければ持ちこたえられない数字と言われている。だが、ATOのほうは欧州最低水準にある水道料金の引き上げを阻止したいと考えており、水道料金を値上げして手っ取り早く儲けを得ようとする投資家より、非効率的だったイタリアの水道事業を効率化して儲けを上げようとする投資家を集めようとしている。

「水道事業というのは、対象地域のさまざまな事情に適応していく能力が求められる事業で、たいへんな我慢と忍耐力を要求されるのです」SuezのGianiもそう語っている。その代わり、イタリアの水道事業は、これまで遅れていた分だけ伸びる可能性が大きく、効率改善に成功したときは、欧州のどこの国より高い利回りが期待され、それが30パーセントにも達するのではないかと見られている。現に、Suezは、イタリアで水道事業を改善することにより、それまでミネラルウォーターを飲んでいた消費者たちが水道水に切り換えるような現象も体験している。

ただ、問題なのは、Ronchi法による水道事業自由化後の規制の枠組みがまだ明確に定められておらず、官営の水道事業に対しても「経済、社会、環境面で相当の理由がある場合」には、従来の方式を継続することが認められており、民間資本投入の環境がまだ不透明なところである。

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