土壌・地下水汚染対策を進めるタイ政府の取り組み――法整備を見据え、地下水モニタリングを強化へ

タイでは、1993年に同国北部ラムプーン県の工業団地において、電気電子機器工場が原因と見られる地下水汚染の疑いのある事例が発生、これを契機に、2000年、地下水環境基準が策定された。当時、同国には、揮発性有機化合物(VOCs)に関する知見や情報(健康に及ぼす影響やそのバックグラウンド・レベルなど)が少なく、この地下水環境基準は、アメリカ環境保護庁の“飲料水に適した地下水の環境基準”を参考に、策定された。この基準の対象となっている有害化学物質は、主として4つのグループに分けることができ、それらは、(1)VOCs(ベンゼン、1,2-ジクロロエタン、テトラクロロエチレンなど)、(2)重金属(カドミウム、銅、水銀など)、(3)殺虫剤、(4)その他の有害化学物質(シアン化物、PCB、塩化ビニルなど)である。

2000年の策定以来、現在まで、同国における地下水汚染調査においてはこの地下水環境基準が用いられている。しかし、基準があるにもかかわらず、同国には、廃水を土壌に注入する場合を除いて、企業や産業施設に対して地下水質をモニタリングするよう、あるいは土壌汚染調査を実施するよう要求する規則はない。それゆえに、過去には多くの深刻な問題が引き起こされており、現在、同国政府は、新たな規則の策定作業を行っている。

近年におけるタイの産業発展は、環境に悪影響を及ぼしており、土壌や地下水の汚染事例が相次いで見つかっている。上述の通り、同国には企業に対して地下水質のモニタリングを要求する制度がないため、土壌・地下水汚染の調査を行うきっかけとなるのは、地域住民からの申し立てである。公害規制局(PCD:Pollution Control Department)は、この問題点を認識しており、現在、特定の産業施設などを対象に地下水モニタリングを要求するように、国家環境委員会(NEB:National Environment Board)に対して提案している。対象の産業施設には、以下の施設などが提案されている。

  1. 地下水環境基準の対象となっているVOCsや殺虫剤、その他有害化学物質を使用、輸送、貯蔵する施設
  2. 地下水環境基準の対象となっている化学物質が含まれるゴミ埋立地や地表貯水池、廃棄物や資材が積み上げられた廃棄物置き場、地下貯蔵タンク、土地処理場(Land treatment:処理することを目的として散布された化学物質を含有する土地)などを有する施設

PCDは、例えばマプタプット工業団地のような周辺住民が地下水を利用している地域など、人体に及ぼす影響が大きいと思しき高リスクの地域を優先的に選定して、地下水モニタリングプロジェクトを開始することを提案している。このプロジェクトによって、できる限り早期に、また多くの汚染地域が特定されることが期待されており、汚染が発見されれば、それが拡大する前に早急に対策がとられることになる。同プロジェクトは、NEBの承認がおりれば、2011年にもスタートする予定である。

その他にも、タイ政府は、対策を取ることが求められる基準値の策定、土壌・地下水調査の実施が求められる基準・要件の策定、健康リスクアセスメント方法の策定、土壌浄化に関する要求事項の策定など、法律や制度の整備を目指して、検討を重ねている。しかし、今後の法整備の展開は、地下水モニタリングプロジェクトで、どれほどの問題が明らかなるかによって、変わることが予想される。

タイにおける地下水環境基準は、以下URLより閲覧できる。
http://www.pcd.go.th/info_serv/en_reg_std_water03.html

また、土壌環境基準については、以下URLより閲覧できる。」
http://www.pcd.go.th/info_serv/en_reg_std_soil01.html

タグ「」の記事:

2020年7月10日
台湾環境保護署、「水汚染防止法事業分類および定義」の改正を公告――オイル貯蔵場や貯蔵施設の分類・定義を改める
2020年7月9日
米EPA、飲料水中の過塩素酸塩を規制しない方針を最終決定
2020年7月8日
ベトナム、水資源開発や排水の許可承認に関する手数料を暫定的に減額する通達を制定
2020年7月7日
ベトナム、水資源分野の違反に対する罰則を定める政令を制定
2020年7月6日
中国標準化研究院、「汚水処理装置一式」など3本の国家標準の意見募集稿を公表し意見募集