タイ工業省工場局(DIW:Department of Industrial Works)は、2011年5月、工場における土壌・地下水汚染を管理するための省令案を策定した。タイでは、近年、土壌・地下水汚染に対する関心が高まっており、DIWは、同国における主たる汚染要因は工場であるとの考えのもと、2009年から関連政策の検討を続けてきた。同国では2011年7月に総選挙が行われる予定であり、DIWは、新内閣組閣後の公布を見据えて、現在、同省令案の詳細な検討作業を行っている。
上述の土壌地下水汚染に関する省令案の概要は、以下の通りである。
- 土壌および地下水汚染、リスク、リスクアセスメント、リスクレベル分析の定義(第2条)
- すべての工場内において、土壌および地下水汚染のレベルは、工業省次官が指定するリスクレベルの範囲内でなければならない。工業省次官は、その場所や産業セクターを考慮して、リスクレベルを指定することができる(第3条)。
- リスクレベルの算出に際しては、主に、(a)揮発性有機化合物(VOCs)、(b)重金属、(c)殺生物剤等の汚染物質が考慮される(第4条)。
- 第3条に基づいて対象となる工場の所有者は、操業前に土壌および地下水のサンプルを採取し、そのリスクレベルを評価し、報告書を作成する(第5条)。すでに稼働している工場は、指定の期間内に、土壌および地下水のサンプルを採取し、そのリスクレベルを評価、報告書を作成する(第6条)。報告書は、監査の際に提供するか、あるいは当局に提出する(第7条)。
- 当該工場は、リスク評価報告書を毎年作成し、当局に提出する。
- 工場内の土壌および地下水汚染状況が、指定されたリスクレベルを超過した場合には、工場所有者は、リスク軽減措置およびその実施スケジュールを当局に提案しなければならない(第10条)。
- 当該工場がリスクを軽減することができなかった場合には、当局は、事業の停止を命じることができる(第12条)。
同国では、北部の工業団地における汚染問題をきっかけに、2000年に地下水汚染に係る環境基準が策定、続いて2004年に土壌汚染に係る環境基準が策定された。これらの環境基準は潜在的汚染サイトのスクリーニングには利用できるものの、実際には化学物質の流出事故等の限られた場合にのみ利用されるにとどまっている。また、廃水を土壌に注入する場合を除いて、同国には企業や産業施設に対して地下水質をモニタリングするよう、あるいは土壌汚染調査を実施するよう要求する規則がないことから、現状、大半の工場には、土壌・地下水汚染に関するモニタリングを行う義務が課せられていない。
DIWは、新たな省令の普及促進に向けて、2011年末にかけてセミナーを開催する予定である。