インドのケーララ州プラチマダ(Plachimada)で2004年まで稼働していたHindustan Coca Cola Beverages社(以下、コカコーラ社)のボトル製造工場が環境に重大な悪影響をもたらした件に関して、ケーララ州議会は、2011年2月24日、被害を受けた市民への補償のため、特別裁判所を設置する法案を可決した。“コカコーラ社によるプラチマダの被害者のための救済および賠償請求に関する特別裁判所法(Plachimada Coca-Cola Victims Relief and Compensation Claims Special Tribunal Bill, 2011)”と称される本法案は、同州政府が組織した委員会が2010年3月に州議会に提出した報告書の提言に基づいて、2011年2月22日に州議会に上程され、審議、可決されるに至った。
法案可決の約1年前に州議会に提出された前述の報告書は、コカコーラ社のボトル工場がもたらした環境被害額を21億6260万ルピー(約44 億5千万円)と試算し、被害を受けた住民への賠償金の支払いはコカコーラ社の義務であると結論づけていた(EnviX海外環境法規制モニタリング2010年4月号「コカコーラ社の工場が引き起こした地下水の過剰採取等の環境汚染により44.5億円の損害――インドKerala州政府は責任追及へ」に関連情報)。
上述の委員会報告書(2010年3月)によると、コカコーラ社は、取水制限量を超えて地下水を取水するとともに、廃棄物の投棄や廃水によって農場や環境、飲料水を汚染したという。同工場では、50万リットル/day以上の地下水が取水されていたと推定されている。
また同報告書は、1999年から2004年の間における被害額を、農業被害額8億4160万ルピー、水資源の汚染による被害額6億2100万ルピー、水供給コスト2億ルピー、健康被害3億ルピー、賃金および機会の損失コスト2億ルピーと試算している(2011年4月現在、1ルピー≒1.92円)。さらに、同工場が水質汚染(防止および管理)法や環境保護法、工場法、有害廃棄物(管理および取り扱い)規則、ケーララ州地下水(管理および規制)法など、多くの法律に違反していたことも確認されている。
法案の可決をうけて、この問題に携わっている環境専門家は、「本法は、歴史的な法律である。本法の制定は、天然資源の枯渇など問題ではないと考えている企業に対する先例となる」と語り、本法制定の意義を強調している。また、別の関係者も、「この法律は、市民の意思を反映したものである。コカコーラ社は、自主的に賠償金を支払うべきである」と語っている。
いっぽう、コカコーラ社の担当者は、「われわれは、法案および欠陥のある法律制定プロセスに失望している。同法案は、科学的なデータに依拠していない」として、法案提出前に同社の主張を表明する機会が与えられなかったことや、その科学的客観性の欠如に不満を示している。同社は、ボトル製造工場が市民に損害を与えたことを認めていない。
州議会にて可決された上述の法案は、以下のURLよりダウンロードできる。
http://www.niyamasabha.org/bills/12kla/plachimada%20victims.pdf
また、2010年3月に作成された報告書“Report of the High Power Committee to Assess the Extent of Damages Caused by the Coca Cola Plant at Plachimada and Claiming Compensation”は、以下のURLよりダウンロードできる。
http://www.groundwater.kerala.gov.in/english/pdf/report_text.pdf