ドイツの学術機関が国際環境学雑誌Environmental Science & Technology誌(2011年6月号)で発表したところによると、2015年までに自国の河川を良好な化学的・生態学的状態に改善する、というEU水枠組み指令の目標を、ドイツの多くの河川は達成できそうにない。この論文を発表したのは、コブレンツ・ランダウ大学、ヘルムホルツ環境研究センター、フライベルク鉱山工科大学の研究者。北部ドイツの四大河川であるエルベ、ヴェーザー、アラー、エムス川のデータを10年かけて収集し、分析評価した。本論文の現物を、以下の同誌サイトから購入できる。
http://pubs.acs.org/doi/abs/10.1021/es2013006
コブレンツ・ランダウ大学環境科学研究所のR・シェーファー准教授は、「今回の研究は世界的に、これまで最も大掛かりなものである」と述べた。学者らは、未試験物質の毒性を予測する新たな方法論も使って、1994~2004年まで州当局が収集した河川モニタリングデータを評価した。そして、合計331種の有機性有害物質の河川存在量と、予想されるその有害な影響を調査した。その結果に基づき、河川の汚染をクラス分けした。研究結果のあらましは次のとおりである。
- 331種の有機性有害物質のうち、257種が調査対象の河川から見つかった。
- その一部の濃度は、水生生物に急性中毒影響を及ぼしてもおかしくないほど高かった。
- しかし、水生生物にとって有害な物質の多くは、水枠組み指令の範囲で地表水の化学的状態を判断するために使うEU優先物質リスト(33種)に該当していない。
- 33種の優先物質のうち、所定の限界値を超えていたものは2種にすぎなかった。
- 禁止農薬も河川から検出されなかった。
論文執筆者らは、次のように総括した。
- 確かに、傾向としてはドイツの河川の有害物質は少なくなっている。しかし、全体的には、農薬や工業用化学物質による汚染状況はひどく、動植物相に有害な影響が及んでいる確率が非常に高い。
- 「化学物質が大規模河川で希釈され、それほど高い汚染になっていない」との仮定は、本調査研究で反証された。
- 河川の汚染が現在の水準に留まるなら、EU水枠組み指令の目標をドイツが実現するのは難しくなる。
- 州当局は現在、33種の優先物質に絞ってモニタリングを実施している。しかし、最大のリスクは、優先物質以外の有害物質にこそある。したがって今後は、河川モニタリングの対象物質の範囲を拡充するとともに、正確な汚染源を特定していくよう努力すべきである。