マレーシア国家水道サービス委員会は2012年1月5日、無収水問題への取り組みについて、以下のような内容の文書を公表した。
無収水――漏洩などによって失われ、収益を産まない水――を減らすには、老朽化したインフラという難題に包括的アプローチで継続的に取り組んでいく必要がある。現在、マレーシアのすべての州の上水道は「2006年の水道事業法」にもとづき国家水道サービス委員会の規制下にあるが、「新アセット・ライト・モデル」を採用して設備投資の資金を水道資産保有・管理機構から得ている州はヌグリ・スンビラン、ムラカ、ジョホール、プルリス、およびペナンの5州にすぎない。この新たな資産圧縮モデルを採用したこれら5州では、無収水の削減においても進捗が見られる。
高い無収水率の原因
マレーシアの水道で無収水の率が高いのには、いくつかの原因がある。そのひとつが水道管の老朽化だ。全国の水道管総延長の40%にあたる5万900キロメートルが、40年から60年、あるいはもっと以前に敷設されたもので、そのほとんどがアスベスト・セメント管である。水道管路の保守がきちんとなされていないことや、インフラ交換の資金が不足していること、および施工に問題があることなどが、水道管路からの漏水を増加させている。また、違法な接続による水道水の不正利用が、事業者に大きな営業上の損失と未収金という被害をもたらしている。さらに、アクティブな漏洩管理の実施が徹底されていないため、無収水率を36%という現在の値から引き下げることがなかなかできない。こうしたことがすべて、新たな許可制度のもとでの規制・監督の焦点となっている。
無収水として失われる水には、つぎの2種類がある。
- 営業上の損失(見かけの損失):メーター不感水量、不正な未登録接続などにより違法に使用される水、消防、水道管洗浄、道路清掃などのために合法的に使用されるが通常は計量の対象とならない水
- 物理的損失(真の損失):水道管の破損や漏洩、貯水池のあふれ水、利用者側での漏水など
長期的かつ包括的なアプローチが必要
無収水がどれくらいあるかは、パーセンテージであらわされるのが一般的である。このパーセンテージを、受容できるレベルにまで何年もかけて引き下げていかなければならない。しかし、無収水削減のペースが水需要増大のペースを上回ることができなければ、失われる水の量は増すばかりである。たとえば2010年には、無収水はわずか0.26%しか減らなかったにもかかわらず、浄水・造水された水の量は需要増大にともなって4.3%増加した。つまり、失われた水の量は前年より増えたことになる。
無収水を長期的にかつ持続可能な方法で減らしていくには、包括的な戦略による効率のよいアプローチが必要となる。すべての水道事業者が独自の包括的な無収水削減計画を策定しなければならない。この計画は国家水道サービス委員会の規制と監視下に置かれるもので、営業上の損失と物理的損失の両方を減らすプログラムがこの計画のもとで実施される。水道事業者は、無収水対策プログラムの実施を専門とする漏洩防止部門を設けてそれにあたらせなければならない。
具体的対策
営業上の損失を減らすには、すべての水道事業者が計画性のあるメーター交換プログラムを策定し、メーターの不感、詰まり、動作不良、および盗難といった問題に取り組む必要がある。また、盗水や、特に大口消費者による不正な接続を取り締まっていかなければならない。2011年には、起訴に至った盗水事件が35件あり、そのうち32件について罰金刑が言い渡された。最高額は3万リンギット(約74万円)で、これは過去にさかのぼって見ても最高の罰金額だった。ヌグリ・スンビラン裁判所では2011年12月だけでも8件の盗水事件が裁かれ、クアラルンプール裁判所では同じ時期に3件の盗水事件の裁判があった。また、ペラ裁判所でも、同裁判所としては史上初めての盗水事件の裁判が予定されている。こうしたことは、無収水削減へ向けての国家水道サービス委員会の真剣な取り組みを反映したものといえる。
物理的損失に対する取り組みとしては、国家水道サービス委員会が漏水削減目標を定めるほか、無収水率の高い地域に重点的に取り組むための優先プログラムを各水道事業者が策定することになっている。実施すべき具体的方策としては、地区単位の計量ゾーンの設定、水圧の管理と調整、目に見える漏洩の積極的な検知と修理、貯水池のあふれ水の監視、インフラ管理プログラム、水道管の交換、引込管の点検・修理などが挙げられている。このほか、各水道事業者は、無収水対策プログラムへの人材提供、人材の教育・訓練、情報技術と機器の提供といった必要な支援をおこなうことになっている。
各州の実績
これまで述べてきたアプローチは、すでに許可制度に移行したヌグリ・スンビラン、ムラカ、およびジョホールの3州では成功しており、ヌグリ・スンビラン州では2008年には50.51%だった無収水率が2010年末には43.41%に、ムラカ州では2008年の30.09%が2010年末には26.02%に、またジョホール州では2008年の31.30%が2010年末には29.85%にそれぞれ減少した。
現在、無収水率の最も低いのはペナン州と連邦領ラブアンで、25%を切っている。また、ジョホール州、ムラカ州、およびペラ州では、無収水率は30%以下にまで改善されている。逆に、プルリス州、クランタン州、パハン州、およびサバ州の無収水率は50%を超えている。国家水道サービス委員会としては、2020年までに国全体の無収水率を25%にまで引き下げることを目標としている。しかし、この目標値は、すべての州が新制度に移行して水道資産保有・管理機構からじゅうぶんな資金を得ることができるようになった時点で、より低い値に見直される可能性もある。