薄片状の酸化グラフェンが放射性物質を吸着――水圧破砕やレアアース採掘にも応用可

酸化グラフェンに、汚染廃水から放射性物質を素早く取り除く能力があることがわかり、研究者らは驚いている。

1原子の厚さしかもたないきわめて微小な薄片状の酸化グラフェンが、自然に存在する放射性核種や人工的につくり出された放射性核種と素早く結合し、固形状になるまで濃縮してしまうのである。この薄片状酸化グラフェンはさまざまな液体に溶ける。また、大量につくることが可能である。

放射性物質除去のさまざまな用途

この研究成果は2012年12月にPhysical Chemistry Chemical Physics誌のウェブ版で発表されたもので、論文の共著者のひとりであるライス大学のJim Tour機械工学・材料科学・コンピュータ科学科教授によると、この発見は2011年の地震と津波の被害をうけた福島第1原子力発電所のような汚染サイトの浄化に役立つ可能性があるという。

Tour教授はさらに、この発見は水圧破砕法による石油・ガス採掘のコスト削減や、米国におけるレアアース採掘の再開につながる可能性もあると述べている。

驚くべき吸着速度

共著者のひとりであるモスクワ大学のStepan Kalmykov放射化学科教授は、酸化グラフェンの大きな表面積が強い吸着力をもたらしているとした上で、次のように述べている。「だから、保持性能が高いことはわれわれにとって驚くべきことではない。びっくりしたのは、吸着のプロセスがきわめて速いことだ。ここが重要な点だ」

また、原子力と環境修復の専門家で、論文の著者らと共同研究をしているSteven Winstonはこう述べている。「少量しかない(濃度が低い)ものが反応の相手となりうる何かにぶつかることはあまり頻繁には起きないという化学反応の確率論から言えば、このような『魔法』は、ベントナイトといった粘土の大きなかたまりよりも、酸化グラフェンの場合のほうが起きやすいだろう。とにかく、速いことはよいことだ」

この吸着の速さを知ることが、論文の著者らによる一連の実験の目的だった。研究チームは、合成した酸化グラフェンを使い、ウラン、プルトニウム、およびそれらの吸着にマイナスの影響をおよぼす可能性のあるナトリウムやカルシウムなどの物質を含む模擬放射性廃棄物でテストした。

ナトリウムやカルシウムがはいっているにもかかわらず、酸化グラフェンは、ベントナイトや、核汚染の浄化によく使われる粒状活性炭よりもはるかに吸着性能がよいことがわかった。

これについてTour教授は、「こんなにうまくいくとはとStepanがびっくりする顔を見て、これは確かだと思った」と語っている。

さまざまな放射性核種を吸着――石油・ガスやレアアースの採掘現場での応用も

次に研究チームは、固体や気体にではなく、液体に潜むアクチノイドおよびランタノイド――ともに15元素あり、後者は希土類(レアアース)に属する――の同位体の除去に焦点を当てて研究を進めた。

この意味について、Winstonはこう述べている。「これらの元素は水との親和性があまり高いとはいえないのだが、それにもかかわらず、水のなかに紛れ込むことができるし、また実際に紛れ込んでいることがある。健康と環境という視点から見ると、これは最も歓迎されざる事態だ」

これに関連してTour教授は、自然界に存在する放射性核種も、石油・ガス採掘の水圧破砕に使う液体に紛れ込んで地表に運ばれるが、これも歓迎されないものだとして、次のように述べている。「採掘現場から出てくる地下水の放射能レベルがある値以上だと、その水を地中にもどすことができない。いろいろ問題があるからだ。そこで、莫大な費用をかけて汚染水を全国各地の貯蔵施設へ移送しなければならない」こうした場合に、汚染物質を現場で素早く濾過することができれば大きなコスト削減になるとTour教授は言う。

また、鉱物の採掘にはさらに大きなメリットがあるかもしれないと同教授は指摘する。環境面でのさまざまな要求が、「携帯電話に必要なレアアースの米国国内での採掘を事実上できなくしてしまった」と同教授は言い、さらにこう述べている。「中国が市場を支配しているのは、環境基準が米国と違うからだ。そこで、もしこの技術によって米国でのレアアース採掘を復活させることができるとすれば、これはすごいことだ」

福島での利用や地下水の原位置浄化も視野に

Tour教授は、放射性核種をつかまえても放射能が減るわけではなく、ただ扱いやすくなるにすぎないことを指摘した上で、次のように述べている。「たとえば福島の原発のように放射性物質で汚染された水が大量にあるところでは、そこに酸化グラフェンを加え、イオンとして溶け込んでいる放射性物質を吸着させて固形物にする。それを掬い取って燃やせばよいわけだ。酸化グラフェンはとてもよく燃えて、あとには再利用可能な放射性物質のかたまりが残る」

さらに、酸化グラフェンは低コストで生物分解性にすぐれていることから、透過性反応壁への利用にも適しているはずである。透過性反応壁というのは、地下水を原位置で浄化する最新の技術である。

この研究プロジェクトについて

米国の海軍研究局の多分野大学研究イニシアチブと空軍科学研究局が、ライス大学に資金を提供した。

また、ロシア連邦の教育・科学省とロシア基礎研究財団が、モスクワ大学における研究に資金を提供した。

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