米環境保護庁(EPA)は2018年7 月19日、石油・天然ガスを採掘する際に発生する排水を再生し、再利用を図るため、ニューメキシコ州政府と覚書(MOU)[1]を締結した。同覚書に基づき、EPAとニューメキシコ州政府は、既存法規制や許認可枠組みを見直すとともに、排水再利用の潜在機会を特定する。
石油・天然ガスの採掘に伴い大量の排水が発生しており、今後も採掘事業の活発化により排水量の増加が見込まれている。現在、大部分の排水は地下へ破棄されており(下図参照)、処分された排水は利用できない状況にある。一部の地域では、排水の地下への廃棄は制限されており、新たな排水の破棄方法を検討する必要性が高まりつつある。特に水不足が深刻化している地域では、一部の州政府や関係者の間で、排水の再生、再利用を促進するために、どのような段取りが必要であるかが議論されている。
図 石油・ガス随伴水(produce water)の処理の内訳(2012年)
(出典:U.S. Produced Water Volumes and Management Practices in 2012[2])
ニューメキシコ州では、2017年単年に約9億バレルに上る排水が石油・ガス採掘事業から発生しているものの、その大部分が注入井を通じて地下へ破棄、再利用されていない状況にある。そのため、今回の覚書の締結を通じて、排水の再生、再利用を促進する既存規制や許認可枠組みの見直しを検討するため、作業委員会を召集する。同作業委員会では、ニューメキシコ州に適用される既存の連邦法や州法を総合的に扱い、排水再利用の潜在的機会を特定する公式報告書(ホワイトペーパー)が2018年後半に作成される。完成後、オンライン上に掲載されステークホルダーから意見収集を行う予定である。
今回の覚書の締結は、今年5月初旬にEPAが公表した米石油・ガス業界における排水管理の実態研究調査の結果[3]に基づいている。同研究調査では、陸上における従来型及び非従来型石油・ガスを採掘する際に発生する排水の管理手法等が提言されており、排水処理施設へ導入可能となる技術の評価などが含まれていた。
EPA水支援局長を務めるDavid P. Ross氏は、「地下への排水処理は実用的であるものの、石油・ガス採掘から生ずる排水を処理、循環利用する代替手法が存在する。特に、ニューメキシコ州など水不足が深刻化している地域では、排水の循環再利用が重要である」と述べた。また、EPA第6地域局長であるAnne Idsal氏は、「今回の覚書は、ステークホルダー間の協力を更に促進し、水資源の保全と経済機会を促進する。我々は、排水の再利用に向けて、ニューメキシコ州政府とともに取り組んでいくことに期待を寄せている」と述べた。
ニューメキシコ州エネルギー資源天然資源局長Ken McQueen氏は、「ニューメキシコ州は現在、米国で3番目に石油生産量が多く、採掘される石油には大量の排水が伴う。排水の再生、再利用を促進するため、関連する連邦及び州政府の法的枠組みを明確化する(見直す)」と述べた。また同州政府環境局長Butch Tongate氏は、「排水を有効活用するために、公衆の健康や環境を保護すると同時に再利用を支援する十分な法的枠組みを確実に構築することが重要である。今回の覚書はこれを実現化する」と述べた。
なお、米国全体の石油・ガス井の分布、およびニューメキシコ州での分布は以下の通り。
図 米国内陸の石油・ガス掘削井の分布
(出典:Detailed Study of the Centralized Waste Treatment Point Source Category for Facilities Managing Oil and Gas Extraction Wastes)
図 ニューメキシコ州での資源別掘削井の分布
(出典:Mapping the energy footprint of produced water management in New Mexico[4])
[1] MOUの原文は以下。
https://www.epa.gov/sites/production/files/2018-07/documents/epa-nm-mou_produced-water_07-16-2018.pdf
[2] http://www.gwpc.org/sites/default/files/Produced%20Water%20Report%202014-GWPC_0.pdf
[3] Detailed Study of the Centralized Waste Treatment Point Source Category for Facilities Managing Oil and Gas Extraction Wastes
https://www.epa.gov/sites/production/files/2018-05/documents/cwt-study_may-2018.pdf
[4] http://iopscience.iop.org/article/10.1088/1748-9326/aa9e54/pdf