ニューヨーク州立大学、水中の汚染物質を生分解性化合物へと分解する「ナノグリッド」を開発――原油流出事故の対応やシェールガス採掘の廃水処理に期待

2013年11月8日、米国国立科学財団(NSF)が発表したところによると、ニューヨーク州立大学 (SUNY)ストーニーブルック校、材料工学科のPelagia-Irene (Perena) Gouma教授が新規な「ナノグリッド」を発明したという。これは、原料に銅担持酸化タングステン(copper tungsten oxide)を用いた金属の格子(グリッド)からなる大きな網であり、日光を受けて活性化し、漏れだした油を生分解性化合物のみに分解する機能をもつものである。シェールガス開発における廃水処理などに有効な手段と期待される。

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図:透過電子顕微鏡によって観察したナノグリッドの構造。各ナノ粒子が鎖のように繋がっている。
(出典:米国NSF http://www.nsf.gov/discoveries/disc_images.jsp?cntn_id=129566&org=NSF

水を汚染することなく炭化水素を分解

この発明について、SUNYのナノ材料・センサ開発センター長を務めるGouma教授は次のように語っている。「私たちは、水を汚染することなく、水中の炭化水素を分解する能力を持つ新たな触媒を開発しました。これは太陽光の全スペクトルを使用することができ、また水中で長期にわたって機能することができます。これは既存の光触媒には不可能でした。我々が開発した技術はユニークです。グリッドに光を照射すると機能を発揮し始めます。そしてこれは何度も繰り返し使用することができます。どんな油の流出事案においても機能を発揮することでしょう。また、このグリッドはどんな船舶にも積むことができるので、少量の油漏れであればその場で自ら対処することができるのです」

シェールガス採掘に伴う排水処理にも応用の可能性

このグリッドは、まずは原油流出の対応に使用されるだろう。しかし、潜在的にこの発明品はシェールガス採掘のための水圧破砕法(ハイドロリック・フラクチャリング)で出る排水の処理やその他の工業的プロセスなど、他の用途にも価値を発揮する可能性がある。彼女の研究室にて発明されたこの「photocatalytic nanogridsTM*は、「金属のメッシュの上に堆積した不織ナノ繊維上のナノ製造プロセスの過程で」起こる独特の「自己組織化(self-assembly)」プロセスにより作成される。「加熱すると高分子ナノ繊維の中で金属クラスタが拡散し、その後単結晶のナノワイヤーを形成します。その後、これを酸化させると、金属酸化物–セラミック–ナノ粒子がちょうど鎖のつながりのように、互いに接続するのです」と彼女は説明する。これらは「表面積を最大化し、汚染物質への曝露を最大限に可能とする頑強な3次元構造を形成する一方で、ナノスケールの粒子サイズが迅速な触媒作用をもたらします」と彼女は説明する。「結果として、これまでにない光触媒技術を活用した自律型水浄化システムができあがったのです」

* photocatalytic nanogrids:光触媒ナノグリッドの意味。

NSFのI-Corps助成金を活用

2011年の秋、Gouma教授は5万ドル(約500万円)の NSF イノベーション・クロップ(I-Corps:Innovation Corps)助成金を受けとった最初の科学者となった。これは、研究者やエンジニアの興味の中心を、研究室の枠を超えた商業化に向かわせる一連の活動、プログラムを支援するものである。得られた研究成果は、I-Corpsを通じて、経済および社会に対して短期的な利益を生む技術へと転換されることとなる。I-Corpsは、アカデミックな研究から生まれる貴重な製品化の機会を被助成者に教え、また大学教員と学生の参加者に起業精神についての研修を提供する官民のパートナーシッププログラムである。

事業化を目指しすでに特許を2件出願

Gouma教授と彼女の研究チームは現在、製造のスケールアップと試験研究の実施を視野に、事業を立ち上げるプロセスに着手している。すでに2件の特許を出願済みである。「私たちは現場での実現可能性を実証し、その後、これを大量生産したいと考えています。この技術の有効性について、原理的な証明はできています。私たちの技術は、研究室ではうまく機能します。我々に今必要なことは、これが実際の現場でも役に立つことを確認することなのです」

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