鉱業の世界的大手、Anglo American(本社:ロンドン)は、炭鉱廃水を8万人分の飲み水に変えることに初めて成功した企業として知られているが、いまや、その技術は業界のモデルとなりつつある。
Angloは当初、南アフリカのウィットバンク(別名Emalahleni)で3つの採掘現場から出る汚染水を浄化していたが、それがたいへんうまくいったため、現在、同地の浄化プラント――Emalahleni水再生利用プラント――の規模を倍増しているところである。また、同じ南アフリカで、BHP BillitonとGlencore Xstrataの2社も同様のプラントを建設中である。
世界の水不足に対処する有効な手段に
1億3000万ドル(約130億円)のプラントは6000億ドル(約61兆円)という世界全体の水ビジネスの規模から見れば微々たるものだが、Anglo Americanの廃水再生利用プラントは地域の公営水道による供給水の12%をまかなっているばかりでなく、将来の鉱業界にとってどのような廃水処理の可能性があるのかを示す雛型の役割もはたしている。さらに、世界各地でますます深刻になりつつある水不足に対処するための方策を企業と自治体がさぐっていく上で、新たな道筋を示してくれるものでもある。
鉱山では、廃水をある程度まで処理することがよくおこなわれている。しかし、飲用に適する水質にまで浄化したのは、Emalahleni水再生利用プラントが初めてである。この水再生利用プラントについて、ウィットバンクに隣接するハウテン州のMarius Keet水利局長代理はこう述べている。「これはひとつのモデルだ。あるべき姿を示すよい手本だ」
水不足と環境汚染を同時に解決
この廃水浄化技術は、費用もさほど安いわけではなく、また、浄化処理プロセスの残留液、すなわち有害物質を含んでいる可能性のあるブラインを貯蔵しなければならないという負担が企業に生じる。それにもかかわらず、先に示したBHPやGlencoreをはじめとする他社が同様の手法を採用しようとしているのは、この業界が水不足と、石炭採掘による環境汚染の問題をこれによって同時に解決しようとしているからである。
Angloその他の採掘企業が産出する石炭は、世界のエネルギーの40%をまかなっている。2000年から2011年までのあいだに石炭の消費量は54%増加し、それにともなって二酸化炭素の排出量も増えた。
Emalahleni水再生利用プラントは逆浸透膜を使用しており、1日に3000万リットルの炭鉱廃水を処理する。水の回収率は現在99.5%だが、2014年内に拡張工事が完了すると回収率は100%になる見込みである。同プラントで水文学部門のマネージャーを務めるAngloのThubendran Naiduによれば、海水淡水化プラントの水回収率はこれよりも低く、60%ないし70%程度だという。
炭鉱廃水を高水質の水に浄化することで、企業は石炭の生産をつづけ、水利権を保持し、なおかつ水の酸性度を下げて機器の腐食を防ぐことができる。
Emalahleni水再生利用プラントの建設工事を請け負ったAvengのエンジニアで、同社に買収されたKeyplanにかつては所属していたAdrian Viljoenはこう述べている。「鉱山廃水は川に捨てる前に処理する必要があった。そうすることで、会社はもうひとつよいことをしたことになる。余分にかかった費用といえば、水を自治体に送るための配管だけだ」
大手3社の最近の動向
Angloをはじめとする鉱山会社のこうした取組は、南アフリカ政府の規制によるところが大きい。鉱山を操業するには水利権が必要で、その水利権を得るには、閉山後の水処理計画や濃縮ブラインの適正な取扱い方法など、さまざまな条件をクリアしなければならない。Angloの水部門を統括するRichard Garnerによると、同社は、燃焼用石炭の採掘事業に同様の水再生利用プラントを新たに建設する直近の計画はないものの、プラチナおよび銅の採掘事業にこうした水処理技術を導入することを検討しているところだという。
Glencoreは、ミッデルバーグの炭鉱に水処理プラントを建設し、水路への排出が認められるレベルにまで廃水を浄化しようとしている。この水処理プラントは2014年後半に運転を開始する予定で、処理能力は日量2000万リットルとなる。ミッデルバーグのこの水処理プラントには、BHPも資金を投じている。Glencoreはまた、Angloのものと同様の廃水再生利用プラントを所有しており、これは2010年に運転を開始した。処理能力は日量1500万リットルである。このプラントは、ヘンドレーナの住民の飲用水のおよそ20%をまかなっている。