スペインの都市水道法案、民間による水道事業への投資の呼び水に

スペイン政府は、一般家庭や企業に水を供給する地方自治体の水道事業への規制を、効率化などの観点から厳格化しようとしており、そのための都市水道法案を準備しているが、これが、Acciona SAやフランスのSuez Environnementなどの民間企業に有利にはたらく可能性がある。
この法案は、消費者に水を直接販売する地方自治体に対して、考え得る最良の代替事業者と比べて「持続可能性が高くて効率的である」ことを求めている。この持続可能性や効率性は、収益性と投資収益率で判断され、これらの分析結果は公開されることになっている。

世界の水ビジネス市場はおよそ5600億ドル(約57兆円)と見積もられているが、スペインで初めて全国にわたって都市水道コンセッションを可能にするこの法案は、新たな水道事業者の参入の道をひらくとともに、世界の水ビジネス市場の成長につながるものでもある。スペインのエンジニアリング会社、Abengoa SAによると、世界の水ビジネスの総売上は向こう4年間に3.9%伸びると予想されている。

都市水道コンセッションの仕組みによってスペインがさらに市場を開放することになれば、ヨーロッパ第2の水道事業者でバルセロナの水道管理会社の支配株主でもあるSuezや、スペインのAccionaやFomento de Construcciones SAといった企業が、コンセッションの獲得に手を挙げることになりそうだ。
この都市水道法案について、水道の規制に詳しいAbel La Calle Marcosアルメリア大学法学部教授はこう述べている。「これはビジネス寄りの法案であって、おもに水道事業者を支援する内容になっているが、それと同じくらい国民の利益が守られるかとなると、それはよくわからない」

EUの水指令への違反状態が継続中

Miguel Arias Canete農業大臣は2014年2月、水の管理を改善する必要性から、政府が都市の水サイクルの完結化に向けた規制を検討中であると語った。スペインは現在、EUの水指令にある廃水に関する規則の順守を怠っており、Arias Canete農業大臣によれば、そのための罰金の総額が2億ユーロ(約280億円)にもなるおそれがある。
都市水道法案は、現在のところ、議会での審議の前提となる閣議決定もまだなされていない。また、この法案について政府はまだ正式なコメントを発表していない。
スペイン水道・水処理業者協会によると、同国では、都市水道市場のおよそ36%を民間企業が占めているいっぽうで、水道サービスを直接提供する官営の企業体や地方自治体が占める割合は市場全体の47%にのぼる。

水の価格の決めかた

都市水道法案では、国の市場競争委員会(CNMC)が都市の水道事業者を監督することになっている。規制の費用は、あらかじめ決められた水道料金のなかから水道事業者が拠出する。これまでのところは、公共サービスに関しては地方自治体がほとんどのルールを決めてきた。
法案はまた、年間の水道料金を算出するための数式も示している。この数式には、水道サービスを提供するためのコストや、投資額といった要素が組み込まれている。
法案はさらに、水道サービスの範囲を、これまでの原水の購入と浄水などから、消費や、河川にもどす前の廃水の処理までも含めたものにするべきだとしている。

世界資源研究所(WRI)の水需給分析によると、スペインはヨーロッパでも最も水ストレスの厳しい国である。それにもかかわらず、PricewaterhouseCoopers(PwC)によると、スペインの水価格はEU全体の平均よりもおよそ46%安い。
前出のArias Canete農業大臣は2014年4月3日、アリカンテでひらかれたある会議でこう述べた。「農業省は、水道業界のどの部分に資金投入の必要性があるかを調査しているところだ。また、水道事業の経済・資金面での制度改革を推進してコスト回収の基準に合うようにすることも必要になるだろう」

淡水化プラント

Arias Canete農業大臣は2014年2月、Acciona、PwC、およびExpansion新聞社が共催したイベントで、スペインの前政権は15基の淡水化プラントを建設する計画を立てたが、そのうちわずか1基しか稼働していないことを指摘した。さらに同大臣は、淡水化プラントの建設でスペインはEUからおよそ20億ユーロ(約2800億円)の援助をうけており、プラントが稼働しない場合はそれを返還する必要が生じるかもしれないと述べた。

都市水道法案には、淡水化プラントの工事を完成させるために民間の投資を誘致することも盛り込まれている。それによると、落札者は政府の補助を受けることができる。
また、この法案は、淡水化プラントの完工のために民間の投資をうけるには、その前に周辺自治体から淡水化された水を使うという確約を得なければならないとの条項もある。

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