ドイツの代表的な環境研究団体であるヘルムホルツ環境研究センターが2014年6月16日、「欧州河川の水質を2015年までに著しく改善する」とのEU水枠組み指令の目標を加盟国は達成できない、とする研究結果を発表した(以下のリンクに、同研究センターのプレスリリース)。
http://www.ufz.de/index.php?de=32923
同研究センターは、ドイツのランダウ環境科学研究所、フランスのロレーヌ大学とフランス電力会社(EDF)、スイス連邦水供給・下水浄化・河川保全研究院(EAWAG)の研究者らととともに、6月16日付けの米国Proceedings of the National Academy of Sciencesで論文を発表した*1。
同論文の要旨は次のとおりである。
(1) ドナウ川やライン川といった、欧州の大規模河川にかなりの有害物質が流入していることから、EU加盟国は水枠組み指令の2015年目標を達成できない。現在、水質改善のため各国が講じている措置は、化学物質の流入を十分考慮していない。化学物質が生態系に及ぼすリスクは、これまで想定していたよりも著しく大きい。本論文はこの点を、欧州レベルで初めて立証した。
(2) 河川への化学物質流入の最大の経路は、農業と都市汚泥である。最大の汚染物質は圧倒的に農薬であるが、有機すず化合物、臭素系難燃剤、多環芳香族炭化水素(PAH)の濃度も懸念されるレベルまで高まっている。EUは、特に懸念される約40種の化学物質を優先リストに収載し規制している。これら優先物質の多くは現在、もはや使われておらず、多くの流域で濃度が下がっている。しかし、今なお利用されている多くの化学物質が、水質モニタリングの対象になっていない。これは問題である。優先物質のなかには、しきい値があまりにも甘く設定されているものもある。
(3) 各国の環境当局や専門学界はこれまで、化学物質流入問題を、一部河川のローカルな問題とみなしてきた。しかし欧州数千の河川で、化学物質が生態系へのリスクとなっていることが、初めて確認された。化学物質による水域汚染は、欧州河川の約半数で生態系リスクになっている。それどころか河川の約15%で、水中生物への急性毒性作用が生じるおそれがある。欧州河川の水質は、むしろ悪化している可能性さえある。
(4) 河川に流入する重要な有害物質をできる限りすべて把握するため、生態系、物質の作用、化学物質の種類という3つの観点を統合したスクリーニング法を開発して、まだ優先物質リストに収載されていない有害物質を探し出すことが望ましい。
*1 Egina Malaj et. al., 2014: Organical chemicals jeopardize the health of freshwater ecosystems on the continental scale, Proceedings of the National Academy of Sciences,
doi: 10.1073/pnas.1321082111
http://www.pnas.org/content/111/26/9549