2014年6月24日に報じられたところによると、すべてのフィリピン国民に清潔な水へのアクセスを確保するためには、2025年までに930億ペソ(約2182億円)が必要であるとの試算を、世界銀行が発表した。
米国国際開発庁(USAID)、Philippines Mission DirectorのGloria Steele氏は、6月23日に開催されたフォーラム“Innovating and Building Partnerships for Water Security”の場で次のように述べた。「(世界銀行の試算は)民間セクターが、上下水道関連インフラの拡充、または水関連システムの効率向上を図るプロジェクトへの資金調達を通じ、水の安全保障に取り組む良い機会となるものです」
国民の過半数は未だにローカルな水システムまたは井戸水等に依存
2004年~2010年の同国のミレニアム開発目標(Millennium Development Goals)についてまとめたPhilippine Progress Reportでは、フィリピンの人口の92%が、改善された飲用水源へのアクセスを得たと報告している。しかし、2011年の年次貧困指標調査によれば、水道(レベルIII)にアクセスできる国民の割合はわずかに44.4%であり、国民の過半数がローカルコミュニティの水システム (レベルII、12.5%)または保護された井戸または湧き水(レベルI、31.8%)に依存しているのが現状である。
水道サービスが普及しない大きな理由は、依然として資金不足
前述のSteele氏は次のように語った。「こうした浄水アクセスの未発達はフィリピンの経済や健康、そして国全体の発展に深酷な影響をおよぼしています」また、フィリピンにおける水分野でサービスが行き渡らない最大の原因のひとつは、依然として資金の不足であるとして、次のように付け加えた。「水不足地域に水の供給を拡大することに特に重点を置く政府の投資は近年増えてはいるものの、依然として資金は著しく不足しています」
米国政府はUSAIDを通じ、フィリピン政府との緊密な連携の下、清潔な水と下水道サービスへのアクセスを拡張するため、連関するガバナンスと能力開発の問題に取り組んでいる。USAIDは、資金の提供は行わないが、政策面での環境整備、また融資可能なプロジェクトの判断においてフィリピン政府を支援しているとSteele氏は語る。
USAIDの「Be Secure Project」チーフのRamon Alikpala氏は公共事業省(DPWH)長官のRogelio Singson氏の発言を引用し、930億ペソという必要額は、それが2025年までのDPWHの予算総額のわずか10%に相当する額であることに鑑みれば、支出可能だろうとの見込みを述べた。USAIDの「Be Secure Project」とは、フィリピンにおける持続可能な上下水サービスに対する資金集めが抱える主要な問題の解消に取り組むイニシアティブであり、第二級都市の経済発展を促進し、投資とフィリピンの包括的開発を促す「都市開発イニシアティブ(Cities Development Initiative)」の下でUSAIDの取り組みをサポートしている。
政府からの補助金も手薄、下水道建設にかかる多額のコストが投資を呼ばない理由に
しかしAlikpala氏によれば、DPWHが策定した下水・汚物管理プログラム(National Sewerage and Septage Management Program)*1では、民間部門または地方自治体(LGU)が水システムに投資する際に提供される補助金は40%のみであり、またその際には下水システムや水管理システムを建築するという要件が課せられるという。さらに彼はこうした多額のコストが下水道分野から投資家を遠ざけ、結果として水サービスのさらなるコスト高を招来しているのだと指摘した。フィリピンでは、首都であるマニラやその他の計画都市等は、下水の問題を解消する汚物管理システムを備えているが、その他の都市では、水質浄化法に規定された要件があるにも関わらず投資家が投資対象としているのは配水システムのみであるとAlikpala氏は指摘する。
フィリピンには約1600 の地方自治体が存在する一方で、水道区は約500しかなく、小規模な給水業者が100程度存在するのみである。これはつまり、1000以上の地方自治体が独自の水システムを運営し、この分野における専門的知見をほとんど、または全くもたないということを意味している。DPWH のSingson長官は次のように語った。「フィリピン政府は、経済的、技術的、その他のパートナーシップも含めて、給水サービス開発プログラムに対する民間分野の投資の可能性と機会を絶えず探索しているのです。」
*1 2020年までの下水・汚物処理に関する目標を定めたプログラム。水質浄化法第7条に基づき、DPWHが関係機関、地方自治体等と協力して策定したもの。2020年までにすべての地方自治体が高度な汚物管理システムを備え、かつ、17の高度都市化市においては高度な下水道システムを備えることなどが目標として掲げられている。