テキサス州とペンシルヴェニア州の一部で、頁岩層からの天然ガス採掘による飲用水の汚染が問題になっているが、それは地中深くの水圧破砕によるものではなく、おもな原因はガス井の欠陥にあることが、5つの大学の研究者らの共同研究によって明らかになった。
アメリカでは、天然ガスの生産量が増すにつれ、井戸水がメタンに汚染されたという報告も増えてきた。こうしたなか、「迷走ガスの科学捜査」ともいうべき手法を初めてフルに活用した研究により、多くの井戸での汚染が見つかったばかりでなく、その犯人が明らかになった。
2年にわたるデータ収集から得た結論
この研究成果を発表した論文の共著者で、共同研究チームを主導しているオハイオ州立大学地球科学科のThomas Darrah助教はこう述べている。「われわれのデータは、調査対象の井戸群の汚染がケーシングやセメンティングの不備といったガス井の欠陥から生じていることを明確に示している」
Darrahはデューク大学在籍中に、デューク大学、スタンフォード大学、ダートマス大学、およびロチェスター大学の研究者らに声をかけてこの研究チームを発足させた。研究チームは2年をかけて、ふたつの州で汚染が疑われてきた130の飲用水井戸からサンプルを採取した。そのうち、両州の8つの井戸群――ペンシルヴェニア州の7群、テキサス州の1群――で汚染が見つかった。これらの井戸群は、高深度のマーセラス頁岩層や、それよりも浅い中深度の地中から水を汲み上げている。
これらのサンプルをもとに、研究チームは汚染の犯人捜しをおこなった。彼らは希ガスのトレーサーと炭化水素のトレーサーを組み合わせるという斬新な手法により、井戸に混入したメタンの化学的特性を調べ、その発生源を探った。その結果、混入したメタンは自然に発生したものでも水圧破砕――地下に注入した混合水の水圧で頁岩を破砕し、岩の細孔にあった天然ガスを取り出す採掘方法――によるものでもないことが判明したのである。「こうした結果は、一部のひとびとが懸念しているような、水平掘削や水圧破砕が原因でメタンが飲用水源の帯水層に移動したという可能性を払拭するものだ」と、研究チームの一員であるデューク大学地球化学・水質学科のAvner Vengosh教授は言う。
不完全なシーリング
汚染井戸群のうち4群では、メタンはガス井の立坑の周囲のセメンティングが不十分なために漏れ出したものであることが判明した。他の3群では、ガス井のケーシングの欠陥部分からメタンが漏れ出していた。残る1群の汚染は、地中におけるガス井の何らかの欠陥と関係していることがわかった。テキサス州パーカー郡では「汚染がまさに発生したところをとらえた」と、共著者のひとりであるスタンフォード大学環境・地球科学科のRob Jackson教授は言う。2012年から2013年にかけてのサンプリング期間中に、途中まできれいな水が出ていた蛇口から汚染水が出るようになった家が2軒あったのである。「飲用水の水質を維持するのに最も重要なのはガス井の健全性だ」とJackson教授は指摘し、企業は多くのガス井のシーリングが適正になるように改善することができるはずだが、それにはかなりの費用がかかり、既存のすべてのガス井を改善できるわけではないと述べている。
業界からは研究結果を疑問視する声も
この研究は、全米科学財団(NSF)とデューク大学ニコラス環境スクールの出資によるもので、その成果をまとめた論文はProceedings of the National of Sciences誌に掲載されたが、業界からはこの研究結果について疑問の声があがっている。天然ガスと石油の生産者の団体、アメリカ独立系石油協会(IPAA)のEnergy In Depthプログラムで広報を担当しているKatie Brownは、ガス井のシーリングの欠陥は「きわめてまれ」なことで、1%の何分の1かのガス井でしか起きていないと反論している。「この研究者らは、問題のガス井が州の規則に違反しているという証拠を何ら示していない」とBrownは言い、石油・ガスの採掘を管理しているテキサス州鉄道委員会の調査では、パーカー郡の井戸水へのメタン混入は自然現象であって、ガス井は要求条件を満たしていることが判明したと述べている。
Brownはまた、Echelon Consultingのピア・レビュー済み論文など、他の研究でも、ペンシルヴェニア州のマーセラス頁岩層の上にある井戸の水に含まれるメタンがやはり自然現象によるものであることが明らかになっていることを指摘している。
水圧破砕と水平掘削の組み合わせは、アメリカのエネルギー産業に好景気をもたらすと同時に、多くの論争を引き起こしてきた。石油・ガス業界は、この方式による採掘はアメリカの経済を支え、国外エネルギーへの依存度を減らす安全な方法であるとしている。