台湾では、2015年2月4日、水汚染防止法の改正法が総統令として公布された。同国では、2013年末に発生した日月光公司の後勁渓廃水汚染事件(注)をはじめ、近年重大な環境汚染事件が多発しており、これを受けて環境保護署は、「水汚染防止法」の一部条文を修正するとともに規制および罰則を強化し、悪質な違法業者に制裁を加えることとした。今回の改正では、9つの条項が新たに追加された一方で、2つの条項が削除され、また36の条項に修正が加えられた。修正の重点は、(1)リスク管理の強化、(2)刑事責任および罰則の強化、(3)不法収益の没収、(4)不法行為の摘発の奨励、および(5)情報公開である。
改正により、リスク管理のために、これまでは下位法令にて規定されていた“勝手に迂回放出してはならない”、“勝手に希釈してはならない”、および“廃汚水処理施設を正常に稼動させなければならない”との規定を、基本法での規定として格上げした。また、改正法には特定産業から排出される汚染物の開示、および放流水標準規制以外の排水基準項目が含まれ、水環境に被害を与える恐れのある際には、あらかじめリスク予測および管理措置を当局に提出して許可を得ることを義務付ける。さらに、モニタリングの質を高めるため、モニタリング地点・項目・頻度の作業要件を強化し、事業者が定期的なモニタリングおよび適切なサンプリングに責任を負うことを規定し、汚染リスクの低減を図る。
罰則強化管理については、主管機関が随時職権を行使して事実調査を行い、行政法上の違反行為が存在する場合には、罰則裁定の基礎となる証拠に基づいて罰則を課す。その際、これまでは日数に応じた連続処罰方式を採用していたが、改正後は違反回数に応じた処分執行に変更する。同時に、迂回排出、希釈あるいは処理施設を正常に稼動させないことによって基準を満たさない排水行為を行った場合の罰金の上限を、現行の60万元(約225万円)から2,000万元(約7500万円)へと大きく引き上げる。また、検査逃れや妨害行為に対する罰金の上限についても、現行の30万元(約110万円)から300万元(約1100万円)へと引き上げ、違法に排水を行い深刻な環境被害を引き起こした汚染者を厳罰に処す。そのほか、許可の取得や届出などをせずに実質的な汚染をもたらす違反行為に対しても、罰金の上限を平均して10倍引き上げる。
刑事責任の強化に関しては、規則による操業停止や有害物質超過放水排出標準に対する不履行、許可証を取得しない排出、迂回排出等の違法行為、および人の健康被害あるいは深刻な環境汚染などの具体的結果を鑑みて、刑罰および罰金のレベルを引き上げる。法人および自然人に対する罰則について、罰金を最大で10倍まで引き上げるともに、犯罪所得没収の規定を新たに追加し、また責任者と計画監督立案者の刑事責任を重くして、行為者および企業責任者に適切な管理を促す。
また改正により、意図的か否かを問わず、本法の違反者に対して罰金を科すことに加え、所得利益の没収も行えるようになる。所得利益と罰金の一部を、水汚染防止処理特別基金とし、優先的に汚染された水環境の整備に拠出し、環境の原状回復をめざす。違法摘発を奨励するために、企業内職員が雇用主の不法をあばくこと(内部告発者)の保護条項も追加され、さらに、罰金の一部は人々の告発奨励金として利用される。さらに、人々の知る権利を高めるために、水汚染予防許可証(文書)や法に基づく申告資料、主管機関の審査や処分の結果、および事業が操業停止処分を受けた後の再開計画書、およびその審査結果を公開し、市民の査問の便を図ることとする。
環境保護署によると、刑事責任を重くし罰金の上限を10倍に高めることの目的は、主として意図的な規則違反、あるいは水系・環境に深刻な影響をもたらす、あるいは被害を与える行為を厳罰に処すもので、軽微な違反あるいは過失のもたらした汚染行為に対しては、大きな影響はないという。当局は、事業者に対して、今回の法改正によって同法に対する理解を深め、さらに法を遵守して処分を受けないようにと呼びかけている。
上述の水汚染防止法修正条文は、以下の環境保護署環保法規ウェブサイトにて確認できる。
http://ivy5.epa.gov.tw/epalaw/index.aspx
(注)後勁渓廃水汚染事件:半導体アセンブリ・テストサービスの世界最大手、日月光半導体製造(ASE)が、台湾南部の高雄市の工場から重金属を含む汚染排水を河川に垂れ流し、河川や下流の田畑を汚染した事件。