アメリカで水の需給が逼迫するなか、水道ユーティリティが下水から飲み水を得る方法についての総合的なガイダンスを、水道関連の4団体が2015年9月14日に公表した。“Framework for Direct Potable Reuse”*1(直接飲料化の枠組)と題するこの文書は、シアトルで開催された毎年恒例のWateReuseシンポジウムで公表されたもので、下水の直接飲料化(DPR)の実施について、規制、技術、およびパブリック・アウトリーチに関する事項も含め、政策立案者や水道関係者のための総合的ガイダンスを提供することを意図して作成された。高度処理した下水を公共水道の水源にすることへの関心が高まっているなかで、水道関連4団体――WateReuse、アメリカ水道協会(AWWA)、アメリカ水環境連盟(WEF)、およびNational Water Research Institute(NWRI:カリフォルニア州の各自治体水道行政当局が設立した研究機関)――は、信頼できる情報とガイダンスが政府からもまだ提供されていないことから、その必要を満たすためにこの文書を作成した。
ガイダンスの概要
このガイダンスは、公衆衛生上の潜在的リスクとそれを緩和するための方策、許認可プロセスの詳細、要員の訓練と資格の認定などについて、規制面を中心とした情報を提供することを目的としている。ガイダンスはまた、健康に害のない高度処理水を得るための技術に関する情報や、運転、保守、水質、および水源管理などのさまざまなプログラム、水質を保証するための多重処理バリアの使用、高度処理水と他の水源からの水のブレンドについても紹介している。さらに、利害関係者と一般市民の関与の重要性、アウトリーチにおけるDPRに特有な課題と目標、計画策定ツール、効果的なDPRアウトリーチ・プログラムのための教材と支援情報などについても触れている。
4団体はこのガイダンス作成のために専門家委員会を設置したが、その委員のひとりであるCarollo Engineers Inc.のAndrew Salvesonは、このガイダンスはDPRまたは間接飲料化(IPR)の実施方法についての「フルコースの」解説書であると述べている。間接飲料化とは、処理された下水をまず地下水または地表水に混入させてから上水道の水源として使う方法である。
関心は高まるも国の動きはまだ見えず
Salveson委員はさらにこう述べている。「わたしが見るところ、これはIPRかDPRかを問わず、必要な事項を網羅した立派なガイダンスであり、下水再利用に関する規制のない州にそれを導入しようとしているひとも、IPRやDPRのプロジェクトをはじめようとしているひとも、ひとしく手に取って持ち運ぶことのできるきわめて貴重なツールだ。まさに、なくてはならない基本中の基本を示したものといえる」このガイダンスは、下水の飲料化への関心が高まり、それとともにDPRの実施へ向けたガイドラインの必要性も増してきているにもかかわらず、「国レベルの指針や規制が近い将来に定められる見込みはない」としている。
NWRIのJeff Mosherは、こうした規制の空白と関心の高まりがこのガイダンスをつくるにいたった動機だとして、つぎのように述べている。「知識のギャップがあったし、この種の情報を集大成したものもなかった。また、この問題に特化した規制もない」
前出のSalveson委員は、このガイダンスの構成をかんたんに紹介したあと、つぎのように述べた。「われわれはDPRを前進させる準備ができている。そのためには、衛生面よりもむしろ、ひとびとの理解と具体的な実施という観点から必要な仕事をつづけていかなければならないと考えている」
EPAは態度未定
環境保護庁(EPA)上下水道・水環境局地下水・飲料水部で基準とリスク管理を担当するPhil Oshida副部長は、今回のガイダンスについて、「われわれはこれを参考に、どのようなガイダンスをつくれば仲間の規制官たち、つまり基本的には州の規制官たちの役に立つものになるかを考えていくことができる」と述べている。Oshida副部長はまた、「われわれは技術面に目を向け、規制面に目を向け、さらに法的側面のいくつかにも目を向けていく必要がある」と述べ、つぎのような、まだ答のみつかっていない問いを発した。「水質浄化法と安全飲料水法との相互の兼ね合いをどうするのか?」たとえば、5フィート・パイプに、高度処理された下水と川からとった水を混ぜて流したとする。その場合、法律上はどのような規制が適用されるのか?同副部長はさらにこうつづけた。「今回公表されたガイダンスは、こうした問いをもっとはっきりしたかたちで問い直すのに役立つだろう。それによって、望むらくは、仲間の規制官たちにも、その他の関係者らにも説明の必要がある事柄について、いくらか明確なイメージが抱けるかもしれない」
下水の飲料化に特化した規制を制定することについては、EPAはまだその決定に至っていないことをShida副部長は明言し、つぎのように述べた。「IPRにしてもDPRにしても、話は盛り上がっているが、他方で、それを望まないひとがいるのも事実だ。これは、どんな規制の場合も同じだ。そこで、何らかの規制を制定しようと思えば、まず、そうしようという判断をうらづける科学的に正当な根拠が必要であり、つぎに、規制の制定を最終決定する段階では、その規制の実施を可能にするさらに厳密な科学的根拠が必要になる」
将来、下水の飲料化について規制またはガイドラインが制定される可能性について、Oshida副部長はこう述べている。「これはきわめて地域限定的なものになると思う。国レベルではわれわれは特定の処理レベルを義務づける権限をもっていないからだ。できるとすれば、おそらくまずガイドラインということになり、それも地域レベルのものになるだろう。だが、われわれはまだその地点にさえも至っていない。何らかの規制をしようと考えるところにさえ達していないのだ。いま現在、われわれは今回公表されたガイダンスを出発点にして、仲間の規制官たちにどのようなガイダンスを提供すればよいのかを考えようとしているところだ」
*1 https://www.watereuse.org/wp-content/uploads/2015/09/14-20.pdf