欧州委員会の環境総局は2015年9月7日、EUで水の再利用を最大限に活用するための新たな施策の立案に向けた参考用(専ら情報提供を目的とし、今後の欧州委員会の政策立案を左右するとは限らない)ロードマップ*1をまとめた。
背景
欧州の淡水資源に対する負荷は増え続け、各地で干ばつの頻度や強度が増している。農業、産業、都市部の用途に処理廃水の再利用を拡大することは、こうした水不足や過剰取水などのリスクへの欧州の対応能力を高め得る。またEUの天然資源の保護と効率的使用、循環型経済の実現に寄与し、省エネにも資する。さらに気候変動への適応、窒素やリンのリサイクル向上、廃水による水質汚染リスクの低減などの環境的メリットもあり得る。
しかし、水の再利用は、その潜在能力に比べて限定的水準にある。その原因と目されるのは、経済性、公衆による受容度と利点の認知の低さ、再利用水に関するEU共通の環境・保健基準の欠如、関連事業を設計・実施・管理する業者・組織間の調整不足などだ。そうした中で、各国が独自に法的措置を導入・変更していることが、この分野の投資や技術革新を阻み、関連企業が規模のメリットを享受できない状態にしている。これは域内市場での公平な競争を阻む可能性もある(再利用水で育てられた食物の流通が規制値の違いを理由に制限されるなど)。またEUの河川流域の60%が2~19カ国が係わる国際流域であることも踏まえると、EUレベルでの対応は正当化される。EUレベルでの対応は、水の再利用を進めたくない国に無理強いはしない。むしろ、この代替資源について体系的な検討を保証し、加盟国が水の再利用の活用を決めた場合に一貫性を確保し、各国が所轄範囲について規制を定めるための措置を策定するものとなる。
目的と選択肢
処理廃水の安全な再利用の活用を促すことで効率的な資源利用を促進し、水環境への圧力(特に水不足)を減らすことを主目的に、検討されている政策オプションとしては以下がある。それらの効果・影響評価は2016年に完了する予定である。
- EU指針の作成、一般と関連事業者を対象とした知識共有・啓蒙活動などを含む情報提供と知識向上のための措置
- 以下の改善を目的とした非強制的措置(価格設定の実施・執行、取水管理と統合的水管理、近く導入される再利用水に関するISO/CEN基準の促進、リスクに基づく再利用水の活用に関するリスクベースの規制の促進)
- 適時適所で水の再利用を最大限に活用することと、それに伴う健康・環境リスクを管理する明確な枠組みを提供することを目的とした、リスクベース方式に基づく水の再利用活動に関する拘束力のある基準または枠組み
- 水の再利用に関する目標の検討または設定の加盟国への義務付け
なお本EWBJの51号でも紹介したが*2、欧州における再生水量の予測ではスペインが最大で、イタリア、ブルガリアがそれに続く(下図)。欧州委員会の予測では、EU域内において2025年までに年間32億2200万m3の水を再利用できる可能性があるという。
図 欧州における2025年における再生水量の予測値(上位10か国)
(出典:欧州委員会・環境総局 再生水の利用に関する意見公募の背景文書)
*1 http://ec.europa.eu/smart-regulation/roadmaps/docs/2015_env_001_water_reuse_en.pdf
*2 EWBJ51号に関連記事有り「水の再利用促進に向けたEUレベルの政策案について欧州委員会が意見公募を開始」