タイではいま水質汚染が問題視されており、その改善にむけて水質保全料の導入が検討されている他、工場に由来する環境汚染について工場の特別査察が実施されるという。
水質汚染に向けた財政的メカニズムとして複数の制度案が併存
2017年1月30日、タイの天然資源環境省(MNRE)のGen Surasak Karnjanarat大臣は、バンコク市内の水質汚染排出源を重点的に取り締まっていくとの方針を明らかにした。現在、バンコク市内の運河の水は水質基準を満たしていない。一例として、2017年の重点取り締まり対象となるセンセーブ(San Seab)運河沿いには631カ所の水質汚染源が存在し、これらの大半は国内企業である。こうした汚染源に由来する水質汚染に対処するため、MNREでは以下のとおり新たな課金制度のオプション案を2つ作成した。これらはいずれも、バンコクの中央下水処理プラントの建設を加速するための基金を設立することを目的としている。
- 観光客1人あたり50バーツ(約164円)の「環境管理料」を収集する。これにより年間14億バーツ(約45億9000万円)の収入となる(観光客3000万人と計算)。
- 水道料金に上乗せする形で「水質保全料」を収集する。これはすでに地下水資源局が導入している地下水保全料と非常によく似ている。しかし、このオプションには多くの規制の改正が必要となる。
このうち、「環境管理料」の案は間もなく内閣に提出される見込みであり、「水質保全料」の案はすでに2017年1月に公害管理局(PCD)から内閣書記官に提出されている。ただし、この「水質保全料」の制度を実現する上では、数年前からよく似た「環境税」制度を提案している財務省と協議しなくてはならない。環境税制度は数年来にわたり協議されているものの、未だ実現に至っていない。環境保全のための財政的メカニズムは、ASEAN諸国を含め、多くの国が実施しているが、どの制度がタイにとって最も適切であるかの決断が待たれている。
新たな中小企業支援策、および工場からの環境汚染について特別査察を実施
MNREとは別に工業省も水質汚染対策に取り組んでいる。2016年2月11日、タイ工業省Uttama Savanayana大臣は首相の承認を得て、200億バーツ(約656億円)規模の中小企業支援策に乗り出すと発表した。高いポテンシャルを持った9070社の中小企業をサポートし、発展させることを目的としたこの予算は、低金利融資という形で中小企業を支援する。また、Gen Prayut Chan-o-cha首相は、大規模工場からの汚染物質の流出に対する懸念を元に、全国の工場を対象に特別査察を行うよう工業省に指示した。この特別査察の対象は2グループに分けられる。一つは繰り返し苦情が申し立てられている39の工場(以下、「第1グループ」)、もう一つは大規模河川の付近に位置している1800の工場(以下、「第2グループ」)である。工業省は、過去数か月で第1グループのうち4カ所の工場の操業許可を取消し、かつ10カ所の工場を一時的に閉鎖させたと報じられている。また、第2グループに属する150カ所の工場に一時的な操業停止を命じたという。さらに工業省は今後数か月の間に、第1、第2グループ合わせて1400カ所の工場を対象に特別検査を実施するという。公衆の信頼を得るため、これらの査察には当該地域を所管する軍が同席する。Gen Prayut Chan-o-cha首相は、汚染物質の流出は国民の大きな関心事であるとして、工業省に査察にしっかり取り組むよう改めて促した。