英国政府へ助言を行う国家インフラ委員会(National Infrastructure Commission:NIC)は2018年4月25日、英国における水供給問題の解決策を提言した報告書“Preparing for a drier future: England’s water infrastructure needs”を発行した[1]。同報告書では、水道事業者が水供給インフラを更新し水効率性を改善しない限り、深刻な干ばつの影響により英国の一般家庭や企業への水供給が停止に追い込まれると、結論付けた。
英国では現在、水供給インフラの老朽化に伴う水道水の漏洩による水損失の発生と、一般家庭における水消費量の削減に向けた取り組みの鈍化が課題である。同国では、国全体で水道水の約5分の1が漏洩しており、1日当たりの水損失量は約30億リットルに達する。また、一般消費者の水消費量は過去約20年間で1日当たりわずか10リットル弱しか低減しておらず、水消費量の削減に向けた取り組みが鈍化している。1人当たりの水消費量は2000年時点で1日当たり150リットルであったものの、現在ではわずか同141リットルに留まっている。デンマークやベルギーなどの欧州隣国での一般消費者の水消費量は1日当たり115リットルの水準である。
英国では、信頼性のある水供給を確保する必要があるものの、気候変動や人口増加等の影響を受けて、特に南部や東部地域では水不足が深刻化している。そのため、インフラを改善し漏水を防止するとともに、一般家庭や企業に対して水需要を低減するといった2本柱のアプローチが将来の水問題を解決する糸口になると、NICは捉えている。これを実現するために、今回発行された報告書では、水道事業者や規制当局に対する提言内容が盛り込まれている。
民営化後に既存水道インフラの改善への投資が一部見られるものの、水道水の漏洩を削減する取り組みが過去約10年間で鈍化している。新たな貯水池や水供給システムなどの新規インフラはほとんど建設されていない状況にある。そのため、過去において最も高まりつつある水供給のプレッシャーに耐えうる水供給システムを確実に整備するため、水が過剰にある地域の水を水不足の地域へ移動させる新たな水供給システムを構築すること、新たな貯水池や海水淡水化プラントの建設などのインフラ整備が必要であることを、NICは提言している。また、水道水の漏洩を完全に防止することは不可能であるものの、漏洩による水損失量を2050年までに半減する目標を水道業界が設定することを、NICは関係省庁に対して要請している。さらに、英国における水供給システムの改善を支援するために、強制的な検針や水効率性を高める措置を策定できる選択肢を水道事業者が持つべきであるとしている。
今回発表された報告書は、NICが今年7月に発行予定の「国家インフラアセスメント(National Infrastructure Assessment)」の根幹となる。同アセスメントは、英国における将来のインフラ整備計画を策定する上で重要な役割を担う。「国家インフラアセスメント」は、同報告書と同様に、交通、水、洪水リスク、デジタル通信、廃棄物インフラといった分野において、生活の質を向上させるための提言内容が盛り込まれている。
[1] 報告書は以下よりダウンロード可。
https://www.nic.org.uk/wp-content/uploads/NIC-Preparing-for-a-Drier-Future-26-April-2018.pdf