米ノースカロライナ州に位置するデューク大学(Duke University)研究チームは2018年8月15日、国内の非従来型石油・ガス採掘の際に使用される水圧破砕法(フラッキング)による水消費量が、2011年から2016年の間に最大770%増加したことを明らかにした。同大学研究チームによる研究成果は“The Intensification of the Water Footprint of Hydraulic Fracturing”としてScience Advancesに掲載された[1]。
米国では、タイトオイルやシェールガスといった非従来型石油・天然ガスを採掘する際に大量の水を必要とするフラッキングが活用されている。これらの主要採掘地域において、採掘井1カ所につきフラッキングにて使用される水消費量は2011年から2016年までの間に最大770%増大した。また、フラッキングに伴い発生する塩水を含んだ廃水量は最大1440%増加した。フラッキングによる採掘が今後も継続した場合、フラッキングの使用に必要となる水消費量は2030年までに一部の地域で現行水準と比べて最大50倍に達する可能性がある。特に、米西部地域の乾燥または半乾燥地域や地下水の供給が枯渇または限定的である地域では、このようなフラッキングによる大量の水消費は地域の持続可能性へ影響を与えるとの懸念が拡大しつつある。
図 世界および米国の水ストレスの状況とシェールガス埋蔵地域の分布
(出典:The Intensification of the Water Footprint of Hydraulic Fracturing)
研究チームを主導するデューク大学ニコラス環境スクール(Nicholas School of the Environment)地球科学・水質学部Avner Vengosh教授は、「前回の研究調査では、フラッキングは他のエネルギー源と比べてそれほど大量な水を必要としないと結論付けられた。しかしこの分析結果は、フラッキングが実施開始された当初のデータに起因している」と述べた。一方、今回の研究調査では、フラッキングによる採掘事業は過去10年間以上に亘り実施されているため、多様な情報源から複数年のデータを活用、分析した。その結果、特に2014年と2015年は、フラッキングに必要となる水消費量とフラッキングによって生ずる廃水量が大幅に増加しており、フラッキングによる年間水消費量は着実に増加していると、Vengosh教授は主張した。
今回の研究調査では、米国における全てのシェールガスやタイトオイルの主要採掘地域に位置する1万2000箇所以上の採掘井を対象として、水消費量、石油・ガス採掘量、廃水量に関する過去6年間に亘るデータを、産業界、政府機関、非営利機関から収集、分析した。これらの過去のデータを踏まえて、2つの異なるシナリオに基づき、将来の水消費量や初年の廃水量を積算(モデル化)した。このモデルによると、仮に現行の低廉な石油・天然ガス価格が上昇し、生産量が2010年代初頭の全盛期の水準へ再び増加した場合、2030年までの累積水消費量と廃水発生量は、シェールガス採掘地域にて最大50倍、タイトオイル採掘地域にて最大20倍に拡大することが判明した。同調査研究の共同実施者である研究員Andrew J. Kondash氏は、「モデル予測によると、仮に(石油・ガス)価格と採掘速度が現行水準を維持したとしても、水消費量と廃水発生量は2030年までに大きく上昇する」と述べた。
フラッキングの使用に伴い発生する廃水は主に、地下から採掘される石油・ガスに付随される塩水と、フラッキングにより地下へ注入された一部の水とで構成されている。この塩水には一般的に、塩気が強く有害である自然起原放射性物質が含まれている可能性があり、安全に取扱い処分することが困難である。また、増加する廃水量を抑えるために、廃水を廃水井を通じて地下へ注入(廃棄)している採掘事業者が増えつつある。この手法は、地域の水供給源から廃水を区別するには有効であるものの、一部の地域では中小規模の地震を誘発している。
Kondash氏は、「新規の採掘技術(フラッキング)や生産戦略を導入することで、米国を始めとする世界の一部の地域において、非従来型石油・天然ガスの生産量は劇的に増加した。今回の研究調査では、特に地域の水利用度や廃水管理など、今後広がりつつある長期的な環境への影響を評価する上で最も正確な指標となる。このような米国での採掘事業から得られた教訓は、中国、メキシコ、アルゼンチンといった他の海外諸国における非従来型天然ガスの採掘事業において、フラッキングの利用を計画・実施する上で有益な情報となる」と述べた。
[1] Andrew J. Kondash, Nancy E. Lauer and Avner Vengosh, The intensification of the water footprint of hydraulic fracturing, Science Advances, DOI: 10.1126/sciadv.aar5982
http://advances.sciencemag.org/content/4/8/eaar5982