米メリーランド州ボルチモアCatherine Pugh市長は2018年8月13日、市上下水道システムの民間への売却及び賃貸を禁止する改正案に署名した。ボルチモア市では今年11月に実施される住民投票を待たずに、上下水道の民営化の禁止措置が施行される。仮に住民投票で可決された場合、米国で初めて上下水道の民営化を禁止した地方自治体となる[1]。
Pugh市長は今年6月末、上下水道の民営化禁止を含めた一連の条例改正案を提案していたものの、市議会はこれに反対していた。同改正案を提案した市議会議長Jack Young氏によると、改正案には合意に至らなかった要項も含まれており協議が難航していたため、合意に達した必要な要項のみを審議した。その結果、前週に開催された市議会の公聴会では大多数の賛同を取り付けた。
環境保護団体、労働組合、市民団体は、上下水道の民営化禁止措置を支援しており、今回のPugh市長の決定を称賛している。環境保護団体のFood and Water Watchは、地方自治体による上下水道の所有、運営は、地域コミュニティにとり必要であり、最優先事項として水道供給に対する公共の権利を保護するという見解を示している。ボルチモア市ではこれまで、複数の民間事業者が公共上下水道の民営化に向けてロビンイング活動を展開してきた。直近では、仏系企業Suezが50年間に亘るコンセッションの締結に向けてロビイング活動を実施した。また2014年には、仏系企業Veoliaによる同様の売り込み活動に対して、環境保護団体や労働組合、市民団体等が市役所前で反対運動を繰り広げた。Food and Water Watchメリーランド支部事務局を務めるRianna Eckel氏は、「様々な理由により、市民はボルチモア市上下水道の民営化に反対している。地方自治体が上下水道システムの運営に直接携わることで、透明性且つ責任ある意思決定が反映される。その結果、インフラの更新が全市民に対して公平に実施されるほか、水道料金に関する問題を迅速且つ公平に解決することができるとともに、各世帯へ提供する水道料金を低水準に維持することが可能となる」と述べた。ある調査によると、水道民営化の下で課される水道料金は公共運営と比べて約60%も高額であるという。ボルチモア市の水道事業は自治体により運営されているものの、水道料金は2015年と比べて33%増加している。
一方、上下水道の民営化を支持する意見として、民営化により運営効率性が大幅に向上するとの声が聞かれる。これに対して、Food and Water WatchのPublic Water for All Campaign部門ディレクターであるMary Grant氏は、コーネル大学都市・地域計画部Mildred Warner教授が実施した分析[2]によると、上下水道の民営化は運営効率性に結びつかないと結論付けている。上下水道の民営化禁止に賛同を寄せる支援者は、今年11月の住民投票にて住民が今回の決定を支持することに期待を寄せている。市議会議長のYoung氏は、「11月の住民投票の際に、ボルチモア市による上下水道の運営体制の変更を禁止する条例改正に対して、市民から圧倒的な支持を得ることに自信を寄せている」と述べた。
現在、全ての市民に対して低廉な水道料金を提供することを市当局へ要請している市民団体もあれば、収入に応じて水道料金を課す制度の導入を支持する声もある。市議会ではこのような措置の検討を視野に入れているものの、議会の公聴会にて同案は議論されていないことを、Young氏は昨年明らかにしていた。ユダヤ人正義団体ボルチモアコミュニティ事務局(Baltimore Community Organizer for Jews United For Justice)のBennet Wilcox氏は、「公的運営の水道料金が全ての市民に対して低廉であることを確かめるために、我々は戦わなければならない。全ての人類は、水供給に対して譲歩できない権利を有しており、ボルチモア市は市民の権利を保証し始めた」と述べた。
[1] その後2018年11月6日に行われた投票の結果、投票者14万8000人の約77%が賛成したことで、正式に「水道民営化禁止」が決まった。以下はロイターの報道。
https://www.reuters.com/article/us-usa-water-cities/baltimore-votes-to-become-first-large-u-s-city-to-ban-water-privatization-idUSKCN1NC2O4
[2] https://www.tni.org/files/Water%20privatization%20does%20not%20yield%20cost%20savings.pdf