アメリカ環境保護庁(EPA)は2016年6月28日、石油・ガス採掘業を対象とした廃水中の汚染物質の「ゼロ・ディスチャージ」のガイドラインと基準を最終規則として官報で公布した*1。この最終規則は、シェールオイル・ガスなどの非在来型タイトオイル・ガスの水圧破砕による採掘で発生する廃水の有害成分が、公共下水処理プラントから直接排出されて河川や上水道の水源を汚染することを防ぐのを目的としている。今回の最終規則は水質浄化法にもとづく廃水ガイドラインを改定するもので、石油・ガス採掘会社に対し、非在来型石油・ガスの採掘で生じる廃水を適正な前処理なしに公営下水処理プラントに送って処理してもらうことを禁じている。
下水処理プラントでは処理できない成分を含む水圧破砕廃水
EPAは、この最終規則の必要性についてつぎのように述べている。「ほとんどの公営下水処理プラントは、産業廃水ではなく一般の下水に含まれる汚染物質を処理するように設計されている。こうした下水処理プラントは通常、すくなくとも二次処理まではおこなうことになっており、汚濁物を除去したのち、生物学的方法によって有機物も除去することができる。だが、非在来型石油・ガスの採掘で生じる廃水には、高濃度の溶解物質(溶解塩)のほか、放射性元素、金属、塩化物、硫酸塩など、公営下水処理プラントがもともと処理を想定していない汚染物質が含まれていることがある。こうした溶解塩や汚染物質は、公営下水処理プラントに流入する下水には通常含まれていないため、非在来型石油・ガス採掘の廃水の成分の一部が、下水処理プラントから未処理のまま水界に排出されたり、処理プラントの動作の妨げ(たとえば生物学的処理の障害)となったり、バイオソリッド(下水汚泥)に蓄積されてその用途を狭めたり、また、有害な殺菌副生成物の発生の原因となるおそれがある」
間接排水にもゼロ・ディスチャージを求める4つの理由
この最終規則を公布した官報記事のなかでEPAは、水圧破砕の廃水は、公営下水処理プラントによる処理ではなく、地下注入、水圧破砕への再利用、または集中廃水処理施設を利用して処理・処分するというのが業界の現行のやりかたであり、同庁はそれを前提として廃水の前処理基準を定めたと述べている。しかし、この最終規則がまだ案の段階で寄せられたコメントのなかには、将来、地下注水処分の容量がいっぱいになったり、費用対効果性の高い前処理を可能にする新たな技術が開発されたりした場合を見越した「逃し弁」として、汚染物質ゼロ・ディスチャージを要求しない前処理基準を定めるべきだとするものもあった。だが、EPAはこうした意見をいくつかの理由で斥けている。第1の理由としてEPAは、非在来型石油・ガス採掘の廃水に対しては直接排水についてゼロ・ディスチャージが定められていることから、廃水を公営下水処理プラントに送る間接排水についても汚染物質ゼロ・ディスチャージを義務づけることにしたと述べている。これは、直接にせよ間接にせよ、廃水を国内の水界に排出するには事前に同レベルの汚染物質除去をおこなわなければならないというEPAの方針に沿ったものである。第2の理由としてEPAは、業界はすでにゼロ・ディスチャージの要求条件を満たしており、それ以外のいかなる条件を定めても結局は現行の要求条件よりも緩いものになってしまい、公営下水処理プラントへの汚染物質の排出を増す結果を招くと指摘している。第3に、EPAは、「逃し弁」の選択肢が必要であるという主張には同意しないとしている。EPAによれば、地下注水処分の容量には現在まだじゅうぶんな余裕があり、これが将来いっぱいになることを示すデータをEPAは持ち合わせていないという。さらに、第4の理由としてEPAは、非在来型石油・ガス採掘の廃水を公営下水処理プラントで処分することを可能にする溶解汚染物質処理の技術はすでに存在するものの、それにはコストがかかりすぎることを指摘している。
当面の対象は非在来型石油・ガスの陸上採掘のみ
この最終規則は非在来型石油・ガス資源からの陸上掘削にのみ適用される。したがってこれは、在来型石油・ガスやコールベッド・メタンの採掘施設で発生する廃水の汚染物質を対象とした前処理基準を定めるものではないが、EPAは、将来、そうすることが適切であれば、それらを対象とした前処理基準を定めることもありうるとしている。
なお、この最終規則は2016年8月29日に発効する。
*1 https://www.gpo.gov/fdsys/pkg/FR-2016-06-28/pdf/2016-14901.pdf