米カンザス州に拠点を構えるヘルスケア系シンクタンクKansas Health Institute(KHI)は2017年10月18日、同州における下水処理水の再利用に対する健康への潜在的影響を分析した調査報告書“Potential Health Effects of Municipal Water Reuse in Kansas[1]”を発表した。同報告書では、再生水の水質や地域住民の容認度など合計7つの項目毎に、再生水の利用に関する長所や短所、住民の健康への潜在的影響等が分析された。調査結果は、カンザス州における水資源管理や水保全などの施策内容へ役立てられる。
カンザス州Sam Brownback知事は2013年、州内の水需要に対応するため、カンザス州における長期的な水ビジョン“Kansas Water Vision”を策定することを、カンザス州水担当室(Kansas Water Office)及び同州農務局(Kansas Department of Agriculture)へ要請した。その結果、水保全、水管理、農業灌漑や植物多様性における技術革新、新たな水供給源の開発など、カンザス州における様々な戦略方針が構築された。その一環として、下水処理場の排水の再生水を新たな潜在的水資源として位置づけ、カンザス州における再生水の利用可能性の検証が進められてきた。KHIは、今回の調査結果を、“Kansas Water Vision”の内容へ反映するとともに、将来において再生水の利用を決定する判断材料の一つとして役立てる。
今回の調査では、以下の7つの項目毎に、再生水の潜在的利用が検証、分析された。分析結果は以下のとおりである(1. と2. の分析結果は統合されている)。
項目 | 詳細 |
---|---|
1. 利用可能となる水供給量 2. コミュニティ持続可能性 |
再生水の利用は、地域で利用可能となる水供給量を増加させる潜在性を有しており、その結果コミュニティ持続可能性の向上をもたらす。コミュニティ持続可能性を向上することで、水確保に対する地域のプレッシャーが軽減され、地域及び住民の精神衛生が改善する。 |
3. 水質 | 再生水の水質は、資金確保の状況や最終用途によって改善させることが可能である。直接・間接飲料水として利用する場合には、他の用途と比較して水質を改善することができる。一般的に、再生水の水質が環境や健康被害に影響をもたらすことはないとされている。 |
4. 水質に対する地域住民の容認度 | 再生水の水質に対する地域住民の容認度は地域によって異なるものの、一般的に水道水よりも低いとされている。特に、排水処理水に対する心理的な拒絶反応が見られる場合や排水処理に携わる自治体への信頼性が欠如している場合は、再生水の水質に対する容認度が低い。 |
5. 上水道以外の飲料製品の利用 | 水質に対する地域住民の容認度が低下した場合、ペットボトルや清涼飲料などの飲料製品の購買や消費が増える可能性がある。清涼飲料の消費量が増えた場合、虫歯や糖尿病などの慢性疾患を引き起こす要因となりうるなど、健康への悪影響が懸念される。 |
6. コストと料金 | 下水処理場における再生水の生成には、インフラ整備や運用・保守など多大なコストが必要となる。再生水の生成に費やしたコストが水道料金へ反映される否かの判断は、実際に要したコスト額、資金源の有無、地域の再生水に対する需要度や容認度に応じて異なる。水道料金の値上げは、低所得世帯の負担が増えることから、これらの住民の健康へ影響を与える可能性がある。 |
7. 規制やガイドライン | カンザス州の地域住民が再生水の利用を希望した場合、新たな法規制やガイドラインが策定される可能性が高い。これらの法規制やガイドラインは、地域住民の健康や環境を保護する目的で策定されるため、充実した法規制の整備は地域住民の健康に利益となる。 |
なお、カンザス州で現在使用されている再生水の状況は下図の通りで、そのほとんどは農業用や芝生への散水用、ゴルフコースでの利用となっている。現状では直接飲用としての再生水の利用はないが、過去に、干ばつのあった1950年代には同州シャヌート(Chanute)にて初となる直接飲用のためのプロジェクトが実施された。しかし、その後、雨が降ったことで水源が復活したためにプロジェクトは打ち切りとなった。
図 カンザス州における再生水の利用用途
(出典:Potential Health Effects of Municipal Water Reuse in Kansas)
[1] http://www.khi.org/assets/uploads/news/14793/waterreusehiaweb.pdf