インド財務・企業業務省(Ministry for Finance and Corporate Affairs)のNirmala Sitharaman大臣は2019年7月5日、水セキュリティの強化と全住民に対する安全且つ十分な飲料水の供給が政府の優先事項であるとの見解を示した。Sitharaman大臣は同日、2019-20年度連邦予算の説明を議会に行う際に、水資源河川開発ガンジス再生省(Ministry of Water Resources, River Development, and Ganga Rejuvenation)と飲料水衛生省(Ministry of Drinking Water and Sanitation)との合併により、今年5月にJal Shakti省が新設されたことは、政府が水問題を優先事項として取り組む重要な動きであると述べた。
Jal Shakti省は、インド国内の水資源や水供給を包括的及び体系的に管理することを責務としている。政府が策定した「Jal Jeevanミッション」に基づき、2024年までに農村地域に居住する全住民に対して上水道サービスを供給するために、州政府と共に取り組むことを同省の使命として掲げている。同ミッションは、飲料水衛生省の下で策定され、水の需要と供給を地方レベルで包括的に管理することを焦点としている。地方における水需給の管理には、雨水の捕集、地下水涵養、一般家庭排水の管理と農業灌漑としての再利用など、持続可能な水資源確保に向けたインフラ整備などが挙げられる。「Jal Jeevanミッション」は、インド国内全体の持続可能な水を管理する上で掲げられた目標を達成するために、連邦政府・州政府が策定した他の政策スキームと統合される予定である。
インド政府は今年7月1日、国内の水保全及び水セキュリティの取組みを強化する住民参画型PR活動「Jal Shakti Abhiyan」を実施することを発表した。同プロモーションは、特に水不足が懸念されている地区や街区に居住する住民に対して水保全と節水を呼びかける。第一弾として2019年7月1日から9月15日までのモンスーンシーズン(南西の季節風)と、更に第二弾として北東の季節風が吹く10月1日から11月30日の間に実施される予定である。Sitharaman大臣によると、「Jal Shakti Abhiyan」に基づき、水問題が深刻化している地区として256カ所、街区は1592カ所特定された。インド政府は目標達成に向けて、様々な政策スキームの下で配当された予算に加えて、補償植林基金管理計画庁(CAMPA:Compensatory Afforestation Fund Management and Planning Authority)の利用可能となる追加予算を活用する可能性も検討している。
なお、インドの州別の農村部での水道普及率は下図の通りで、北部のほうが比較的に普及率が低い状況にある。
図 インドの州別の農村部における水道普及率(2011年)
(出典:インド統計データよりエンヴィックス作成)
EnviXコメント
インドの各州における農村部での水道普及率、農村人口率(総人口に対する農村部の人口の割合)、および農村部の人口数の関係は下図の通りである。水道普及率と農村人口率については、若干の負の相関が見られる(水道が普及していない州ほど、農村率が高い)。水道の普及が進んでおらず、農村人口の絶対数も多い州としては「ウッタールプラデーシュ州」や「ビハール州」などが挙げられ、今回の政策を受けて、今後はこのような州での水道整備に大きな市場ポテンシャルが期待されるだろう。一方で、インドでは水不足が大きな問題となっており、そもそもの水源の確保も課題である点には注意したい。
図 インドでの農村の水道普及の状況
(出典:各種統計データよりエンヴィックス作成)
なお、こういったインド国内での上水道インフラ市場に進出している企業としてはVeoliaやSuezといった最大手水企業はもちろんのことだが、そのほかの例としてイスラエルのTahal Consulting Engineers Ltd.といった企業もある。Tahalは2015年にカルナータカ州において131の村を対象とした上水道インフラシステムの構築案件を受注した[1]。受注金額は6700万ユーロ(約94億円)(プロジェクトの資金は、半分をインドの中央政府が、あとの半分をカルナータカ州政府が負担)で、プロジェクト全体は設計・建設と運営・保守のふたつのフェーズから成っている。設計・建設フェーズは、取水システム、移送管路、600キロメートルにわたる配水ネットワーク、浄水プラント、8つの貯水池などの設計と建設をおこなうもので、30ヵ月を要すると見込まれている。また、運営・保守フェーズは60ヵ月にわたって実施される予定である。これにより、131の村のおよそ33万1000人に上水道サービスが提供されることになる。Tahalはその後もインド国内で複数の上水道案件を獲得している。
[1] EWBJ55号に関連記事あり「イスラエルのTahal、インドの上水道プロジェクトを受注――131の村で33万人に上水道サービスを提供」